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「きのう何食べた?」に共感し、感動する理由とは?原作からさらに踏み込んだドラマならではの秀逸な演出

コラム

「きのう何食べた?」に共感し、感動する理由とは?原作からさらに踏み込んだドラマならではの秀逸な演出

生身の俳優が演じることによるエモーショナルな化学反応

原作では序盤に初登場したシロさんの元カレ、ノブさん(及川光博)の話や、クリスマスメニューにまつわるエピソードで構成した第5話も、放送後に「神回」との声が沸き上がった傑作だ。クリスマス後の年末、仕事で帰宅が遅くなったシロさんが親子丼を作ろうとすると、あったはずの玉ねぎをケンジが使ってしまっていたことが発覚。内心ムッとするシロさんだが、表には出さず、じゃあ、鶏のから揚げにしようかと言うと、すかさずケンジは「いいよ、いまから揚げ物なんて大変だよ。シロさん、お仕事で疲れているのに。買ってくるよ、玉ねぎ。ほんとごめんね。すぐ戻ってくるから」と、スーパーへ走っていく。

シロさんの元カレ、ノブさん役で及川光博が出演(第5話「史朗の元カレ登場!幸せ…涙のクリスマス」)
シロさんの元カレ、ノブさん役で及川光博が出演(第5話「史朗の元カレ登場!幸せ…涙のクリスマス」)[c]「きのう何食べた? season2」製作委員会 [c]よしながふみ/講談社

この時、シロさんの脳裏に浮かんだのは、かつて同棲していたノブさんと、同じように冷蔵庫の在庫管理について行き違いがあった際の、ケンジとは対極的なノブさんの自己中心的な態度だ。モラハラ気質だけれど、外見があまりにタイプだったがゆえに、いつも言いたいことを我慢して、相手の機嫌を取るのに必死だった若い頃の自分。ふと我に返ったシロさんは、いつしか自分の目に涙が浮かんでいることに気づいて動揺する。さらにドラマ版では、(あぁ、そうか…。俺、いま、幸せなんだ)というシロさんのモノローグが加えられている。ここで、シロさん役の西島が見せる繊細な演技の破壊力ときたら!観ているこちらも、思わず涙がこぼれてしまう。

改めて2人で暮らしていることの幸せを実感する(第5話「史朗の元カレ登場!幸せ…涙のクリスマス」)
改めて2人で暮らしていることの幸せを実感する(第5話「史朗の元カレ登場!幸せ…涙のクリスマス」)[c]「きのう何食べた? season2」製作委員会 [c]よしながふみ/講談社

この一連の流れ自体は原作に忠実で、ケンジの行動に感動したシロさんの目に、コミカルなタッチでちょっぴり涙が描かれているコマもあるのだが、生身の俳優が肉体をもって体現する、内側からぶわっとあふれるような感情の高ぶりは圧倒的。原作がわりと淡々としたドライなテイストの絵で描かれているだけに、俳優たちが見せるエモーショナルな化学反応を楽しめる新鮮さも、よしながふみ作品の実写化の醍醐味だ。


ケンジはいつも、シロさんのことを想い、気遣っている(第5話「史朗の元カレ登場!幸せ…涙のクリスマス」)
ケンジはいつも、シロさんのことを想い、気遣っている(第5話「史朗の元カレ登場!幸せ…涙のクリスマス」)[c]「きのう何食べた? season2」製作委員会 [c]よしながふみ/講談社

何気ない描写の数々から登場人物たちの愛が感じられる

クリスマス前、ケンジが職場のヘアサロンで、シロさんが作ってくれる毎年恒例のメニューの話をした時、タブチくん(坂東龍汰)を含む同僚の美容師たちが「愛だねぇ」「愛ですねぇ」と口々に言う原作にはないシーンもかわいくて、まさにそれ!と言いたくなる。ロマンティックな愛の言葉や、ドキドキするようなキスシーンがなくても、相手が喜ぶ料理を作ったり、おいしいねと言い合いながら食事したりする、そんな穏やかな日常の積み重ねが、最強のラブストーリーになることを「きのう何食べた?」は教えてくれる。

今後、シロさんの弁護士事務所でのポジションはどうなるのか。ケンジの勤務するヘアサロンの店長(マキタスポーツ)とレイコさん(奥貫薫)夫婦の行く末は…など、気になる要素もたっぷり。これからのシロさんとケンジ、2人を取り巻くキャラクターたちの物語も楽しみでたまらない。

文/石塚圭子

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