アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第26回 会議室での攻防|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第26回 会議室での攻防

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アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第26回 会議室での攻防

MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第26回はついに防衛大臣との会議に挑むのだが…。

下座奥から聞こえた声の主は、鈴香だった。

都築はその意外性に驚いた。中込とその一派の傲慢さに痺れを切らすとすれば理乃だろうと考えていた。そして理論派の七海もまた、彼らの理屈にならぬ反論に立ち上がるかもしれないと思ってはいた。
両極端な2人のメンバーの中間を取るバランサー鈴香が、この防衛省で、更には大臣やその取り巻き達を前に立ちはだかったのだ。

「しょうがないんじゃないですか?こんな報告を中込大臣が信じられなくても」
「おい鈴香、何を言い出すんだ・・・」
「確かにパッと聞き馬鹿げてますもんね、仕方ないですよ。周りの皆さんも同じ、いい大人がこんな話を信じろって方が無理がある」
「無理ってお前・・」

鈴香は注目を浴びながら座席の合間を縫って、会議室を舐めるように歩いた。後部に目を向けると吉崎が小さく目配せをしてきた。他メンバーや遠山にも特に動揺はない。おそらくあの座組の中で何かしらの策が練られたのだろう。都築は信じて場を預けてみる事にした。

「ほらご本人の登場だ!お嬢ちゃん、馬鹿げたプロジェクトから解放して学業に集中させてあげるからな」

論破したりと中込が機嫌良さそうに囃し立て、再び座が賑わった。鈴香はニコリと微笑むと、都築の横まで滑り込んできた。

「おっしゃる通り、本当に馬鹿げてると思います。ただ、今回の問題は・・」

鈴香が中込を正面から覗き込み、笑みを消した。

「問題は、この日本の防衛機関が、そしてそのトップたる者が『馬鹿げている』という非常に曖昧な理由で、国の防衛を疎かにしているという点に終始していると思います。これから起こり得るかもしれないという部分についてはあくまでも予測ですが、これまで実際に被害も怪我人も出ている事案です。その事案が更なる拡大を見せるかもしれない、そうした議題の上がる場で、防衛のトップがまるで取り合う気すらない。議事録も映像も残る公式の場です。大臣。そしてその他の皆さんも、先ほどから仰っている『馬鹿げている』という理由でこの場を締めますか?」

広い会議室は水を打ったように静まり返った。

「であれば、おそらく強大になっていくであろう外敵に対し防衛省の理解を得られなかった私達は、丸腰同然で戦い続けなければならないでしょう。でもそれは仕方がない、政りごとはあくまで多数決での決定が原則。ここでの反対派をリストアップ、発言を明記化した上、SNSを通じて問題提起させて頂きますね。では現場に戻らせて頂きます、失礼致しました」

鈴香はわざとらしい位に頭を深々と下げると、振り向きもせず出口に向かった。他のメンバー二人もそれに倣って部屋を出て行った。七海はもうすっかり治ったはずの脚を、まるで全体に見せ付けるように少し引き摺った。
あっけに取られた室内の気まずさに耐えきれず、進行係が「一旦、ええここで休憩を・・」と告げると、顔を真っ赤にした中込に側近が駆け寄り耳打ちをした。進行係は小さく頷くと「皆様、本日はここで散会と致します」と訂正した。

都築はざわめきを取り戻した会議室を飛び出した。
公用ロビーに出ると、来省者用の待合ソファにメンバーがいた。噛み殺しきれない笑いを漏らしながら、してやったりと三人で肩を叩き合っていた。

「あ、都築さんや!お〜い!」
「お〜いじゃないよ、お前らさっきの・・」
「上手かったやろ鈴香」
「上手いとかそういう事じゃなく・・・ちょっと説明してくれよ」

「鈴香の独断でやったんじゃありません。吉崎さんや遠山さんとも話し合っての事ですから」
「ああ、それは何となく分かったよ。正直救われもしたが、これから向こうさんがどう反応してくるか分からない」
「鈴香は舞台経験あるやろ、ドラマもちょこっと出たし。ああいう肝の座った演技するなら鈴香が一番ええってなって」

ピンキーの芸能活動の中で、鈴香だけは演技の仕事もしていた。中堅の規模とはいえ、初舞台であったマクベスの演技力は都築も目を見張るものがあった。そこから実際にドラマのオファーも舞い込み、女優業としての幅を広げようかと考えていた。

「上手くやれてたか自信はないけど、演出家の前でやるより緊張しないよ。全国放送されるわけでもないし」
「おっさん内心慌てとったよな、あれ。顔真っ赤にして黙り込んだやん」
「都築さん、こんな流れで言うと効果的だよって流れは七海が耳打ちしてくれてね、アドリブで足したりしながら何となく・・」
「私は側のアイデア出しただけです。防衛省の幹部があれだけ揃っても、手前の危機管理能力は薄いんだろうなと思ったので。特にSNSが絡んだ話になると大人は弱いですからね」
「やっぱりマズかったですか?都築さんに確認とってからの方がいいと思ったけど、そんな時間もなかったから・・」

言いくるめられそうな自分を見兼ねて、それぞれが自分の出来るやり方で立ち向かってくれたのだ。都築に何を言えるわけもなかった。直属の上司・部下である吉崎と遠山が口出しをしても、余計に難局化してしまっていただろう。それが分かるからこそあの二人もこの案に乗ったに違いない。

「ありがとう。多少強引な手ではあったが、とりあえず向こうも悪いようにはしてこないような気がする。とりあえず反応と返答を待とう」

が、しかし、反応と返答を待つ必要は無かった。防衛省のみならず国そのものが、慌てて腰を上げざるを得ない事態が起きたのだった。

(つづく)

文/平子祐希

■平子祐希 プロフィール
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。
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