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『PERFECT DAYS』で脚光を浴びるヴィム・ヴェンダース監督とは?『都会のアリス』『パリ、テキサス』名作8選からその原点を探る

コラム

『PERFECT DAYS』で脚光を浴びるヴィム・ヴェンダース監督とは?『都会のアリス』『パリ、テキサス』名作8選からその原点を探る

敬愛する小津安二郎へのオマージュを込めた『東京画』

【写真を見る】1980年代の東京はどんな様子?ヴィム・ヴェンダースが敬愛する小津安二郎の描いた東京を歩く(『東京画』)
【写真を見る】1980年代の東京はどんな様子?ヴィム・ヴェンダースが敬愛する小津安二郎の描いた東京を歩く(『東京画』)[c] Wim Wenders Stiftung 2014

1983年4月、ヴェンダースはカメラマンのエド・ラッハマンと共に東京へと向かい、敬愛する小津安二郎の足跡を辿る旅日記を製作しはじめる。だが、80年代の東京の街は、小津映画に映る景色とは似ても似つかず、自ら録音係を務めたヴェンダースは、自分が求めていたものは「幻想の東京」だったと痛感する。撮影から2年後に編集に着手した時には、撮影素材を前に途方にくれるばかりだったと、監督自身のモノローグによって語られる。結果的に、『東京画』(85)は当初の構想から離れ、語るべき物語を失い混乱する一人の男の、極めて内省的なエッセイ映画となった。

混乱しながらも、蝋細工による食品サンプルの制作風景、騒々しい光と音に満ちたパチンコ店、男たちが集うゴルフ練習場など、外部の視点から眺めた東京の風景は見ていて楽しい。なにより、小津映画を支えた俳優の笠智衆と撮影監督の厚田雄春への貴重なインタビューは、映画ファンならずとも必見。

天使と人間の恋を描く『ベルリン・天使の詩』

廃墟の上から人々を見守っている天使ダミエル(『ベルリン・天使の詩』)
廃墟の上から人々を見守っている天使ダミエル(『ベルリン・天使の詩』)[c]EVERETT/AFLO

東京への旅と『パリ、テキサス』の成功の後、ヴェンダースはベルリンへ戻り、世界各地を舞台にした超大作SF映画『夢の涯てまでも』(91)に取りかかる。だがその準備には想像以上の時間がかかり、それならまずは自分がよく知るベルリンでもう1作撮ろうと思い立つ。

天使のダミエルが空中ブランコを練習中の美女マリオンにひと目惚れ(『ベルリン・天使の詩』)
天使のダミエルが空中ブランコを練習中の美女マリオンにひと目惚れ(『ベルリン・天使の詩』)[c]EVERETT/AFLO

ベルリンの街を見下ろし、人間たちの日常を観察する黒のロングコートを着た天使たち。彼らの耳には、いつも人間たちの心の声が聞こえてくる。そんなある日、天使のダミエル(ブルーノ・ガンツ)は、移動サーカスで空中ブランコ乗りをしている女性マリオン(ソルヴェイグ・ドマルタン)にひと目惚れする。

ダミエルは同じ天使である親友のカシエルに「人間になりたい」と打ち明ける(『ベルリン・天使の詩』)
ダミエルは同じ天使である親友のカシエルに「人間になりたい」と打ち明ける(『ベルリン・天使の詩』)[c]EVERETT/AFLO


フランス出身の撮影監督アンリ・アルカンのカメラが、モノクロの世界の中に繊細な光と影を作りだす。ブルーノ・ガンツ演じるダミエルの恋の行方と、相棒カシエル(オットー・ザンダー)との友情を描いたこの物語は、壁崩壊直前のベルリンの風景をとらえたポートレイトであり、天界から人間界へと旅するロードムービーでもある。名探偵コロンボ役で知られるアメリカ俳優ピーター・フォークが本人役で登場するのがまた楽しい。

世紀末の世界を巡る『夢の涯てまでも』

ヴィム・ヴェンダース監督が手掛けた近未来SF的ロードムービー(『夢の涯てまでも』)
ヴィム・ヴェンダース監督が手掛けた近未来SF的ロードムービー(『夢の涯てまでも』)[c]EVERETT/AFLO

ヴェンダースの渾身の企画であり、過去作で繰り返し扱ってきたテーマすべてが注ぎ込まれた集大成と言える『夢の涯てまでも』。これほど巨大な映画とは、映画史を見渡してもそうそう出会えない。『パリ、テキサス』の成功で名声を得た結果、作家映画としては異例ともいえる巨額の製作費がかけられた本作は、日本、アメリカ、ドイツ、フランス、オーストラリアの合作体制、撮影は9か国20都市で行われた。U2やトーキング・ヘッズ、ルー・リードなど名だたるミュージシャンたちが楽曲で参加したことでも話題となった。

当時の東京の風景も映しだされている(『夢の涯てまでも』)
当時の東京の風景も映しだされている(『夢の涯てまでも』)[c]EVERETT/AFLO

物語は、いわゆる世界の終末を扱ったSFもの。製作当時としては近未来となる1999年冬、滅亡の危機に陥った世界で、あてのない旅を続けるクレア(ソルヴェイグ・ドマルタン)とお尋ね者のトレヴァー(ウィリアム・ハート)が出会い、リスボン、モスクワ、北京、オーストラリアと奇妙な追跡劇を繰り広げる。

世界各地の風景を記録していく(『夢の涯てまでも』)
世界各地の風景を記録していく(『夢の涯てまでも』)[c]EVERETT/AFLO

盲目の母のため、世界中をまわり現実の風景を記録し続けるトレヴァーは、まさに映画監督の化身的存在。物語を求め、世界の涯て、さらに自分の夢の涯てまで旅を続けるトレヴァーの姿は、自分が描くべき物語を求め繰り返しロードムービーを手掛けてきたヴェンダースそのものだ。初期ヴェンダースの総集編的映画といえる本作は、2時間半近くのインターナショナル版が公開されたが、後に4時間47分にも及ぶディレクターズカット版が発表され、まったく新しい映画として生まれ直した。

文/月永理絵

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