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リアルな人間模様と社会問題…『12日の殺人』ドミニク・モル監督が語る、“未解決事件”を描く映画術

インタビュー

リアルな人間模様と社会問題…『12日の殺人』ドミニク・モル監督が語る、“未解決事件”を描く映画術

「もしかしたら取り調べを受ける容疑者のなかに犯人がいるかもしれない」

ハリー、見知らぬ友人』(00)で一躍脚光を浴び、その後はサスペンス映画の名手として人気を博してきたモル監督。前作『悪なき殺人』(19)では一つの殺人事件をめぐって登場人物たちの思惑が交錯する巧妙なプロットが話題を集め、第32回東京国際映画祭ではコンペティション部門の女優賞と観客賞をダブル受賞。劇場公開時にはスマッシュヒットを記録した。

【写真を見る】ヒッチコックを敬愛するドミニク・モル監督が、観客に提示するある文言…その意図とは?
【写真を見る】ヒッチコックを敬愛するドミニク・モル監督が、観客に提示するある文言…その意図とは?fanny de gouville

続けてモル監督は「私の映画づくりの根本にあるのは、やはりアルフレッド・ヒッチコック監督の映画です」と、これまで数多くの著名な映画監督たちが影響を受けてきたことを公言している“サスペンスの神様”の名を挙げる。「物語構築や映画的かつ視覚的な語り口の発明、新しい表現技法への飽くなき探究心、張り詰めた緊張感のなかにユーモアを織り交ぜる技術。すべてにおいてヒッチコックは巨匠といえるでしょう」とこの上ない敬意を示す。

それでも本作では、ヒッチコック的な王道のサスペンス映画の文法や従来の作品で見られていたブラックユーモアとは一線を画し、よりリアルな人間模様を描写することに注視したようだ。モル監督自身も撮影前に警察署へ取材に赴き、1週間にわたって実際に働く捜査官たちの日常を観察したという。「原案にある豊かなディテールを再確認しに行きました」とモル監督は話すが、捜査官たちの会話の内容や息抜きの仕方、オフィスの雰囲気からコーヒーの飲み方に至るまで、そのチェック内容はかなり細かい。

本物の警察官たちの日常を観察し、登場人物たちの行動やディテールに落とし込まれている
本物の警察官たちの日常を観察し、登場人物たちの行動やディテールに落とし込まれている[c] 2022 - Haut et Court - Versus Production - Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

精密なリアリティの追求に加えて、捜査官たちを描くという点でインスパイア元となった映画もある。それはリチャード・フライシャー監督が元警察官という経歴を持つ作家ジョゼフ・ウォンボーの同名小説を映画化した『センチュリアン』(72)だ。「この作品では1970年代初頭のロサンゼルス市警で働く警官たちの日常とその任務が描かれています。捜査官たちが仕事に挑むリアリティと、捜査に没頭して囚われていく姿がまざまざと描かれていてとても人間くさく、警察群像劇の傑作といえる作品です」。


さらに捜査官だけでなく、容疑者となる事件関係者たちの描写にも強いこだわりをのぞかせる。「まだ犯人がわかっていない事件なので、もしかしたら映画のなかで取り調べを受ける容疑者のなかに犯人がいるかもしれないし、いないかもしれない。少なくとも私自身のなかでこの人物が犯人だろうというイメージは持たずに作ることは決めていました。大事にしたのは、この容疑者たちが私たちの世界に実在するリアルな人間であると感じてもらえること。彼らは共通して、自分のことしか考えておらず事件については無関心。被害者をひとりの人間ではなくオブジェのように扱う。そういう人物として見せたいと考えていたので、キャスティングや台詞はとても重要でした」。

捜査線上に次々と浮かびあがる容疑者たち…監視カメラに映った謎の男の思惑とは?
捜査線上に次々と浮かびあがる容疑者たち…監視カメラに映った謎の男の思惑とは?[c] 2022 - Haut et Court - Versus Production - Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma
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