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解決しない謎が興味をそそる…『ゾディアック』『殺人の追憶』『12日の殺人』など良作ぞろいの“未解決事件”を基にした映画たち

コラム

解決しない謎が興味をそそる…『ゾディアック』『殺人の追憶』『12日の殺人』など良作ぞろいの“未解決事件”を基にした映画たち

地道な捜査を重ねるも、ブラックホールのような謎に迷い込んでいく『12日の殺人』

このジャンルの最新作『12日の殺人』は、フランス南東部の街サン=ジャン=ド=モーリエンヌで起こった殺人事件を扱っている。2016年10月12日、友人宅でのパーティから帰宅しようとしていた21歳の女性クララ・ロワイエ(ルーラ・コットン・フラピエ)が、真夜中に住宅街の路上で何者かに火を放たれ、翌朝に焼死体となって発見されたのだ。グルノーブル署の殺人課刑事ヨアン(バスティアン・ブイヨン)を班長とする捜査チームは、クララと交際歴があった男たちに疑いの目を向けるが…。

焼き殺された女性の事件を捜査する刑事たちを描く『12日の殺人』ほか未解決事件を題材にした作品をピックアップ
焼き殺された女性の事件を捜査する刑事たちを描く『12日の殺人』ほか未解決事件を題材にした作品をピックアップFanny de Gouville

フランス映画界随一のスリラーの名手たるドミニク・モル監督は、雄大な山岳地帯が広がるグルノーブルの美しい景観をカメラに収めながら、陰惨な事件の真相を追う捜査官たちの仕事ぶりをきめ細やかに映しだす。ヨアンや妻との離婚問題を抱えた相棒マルソー(ブーリ・ランネール)らは、被害者の友人や元交際相手への事情聴取、被疑者の通話の盗聴など、ありとあらゆる地道な捜査を重ねていくが、謎のベールに覆われた真実をたぐり寄せることができない。


容疑者たちの証言から被害者の意外な事実も明らかに(『12日の殺人』)
容疑者たちの証言から被害者の意外な事実も明らかに(『12日の殺人』)[c] 2022 - Haut et Court - Versus Production - Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

やがて本作は『ゾディアック』や『殺人の追憶』の主人公たちがそうであったように、異常な事件への強迫観念に囚われ、公私両面の人生を狂わされていく捜査官たちの苦悩を生々しくあぶりだす。劇中には自転車に乗ったヨアンが、“回し車のハムスター”さながらに競技場のトラックを走り続けるシーンが繰り返し挿入されるが、それはまさにブラックホールのごとく底知れない闇が広がる未解決事件の迷宮を象徴するイメージと言えよう。

活発で家族や友人から愛された女性はどうして殺されなければならなかったのか?(『12日の殺人』)
活発で家族や友人から愛された女性はどうして殺されなければならなかったのか?(『12日の殺人』)[c] 2022 - Haut et Court - Versus Production - Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

捜査官たちの捜査の過程を通して、男性優位、女性蔑視が根づいた社会の風潮をも鋭く射抜いた本作は、現代的な視点がこもったヒューマンドラマとしても一級品。そしてなにより“解決されないミステリー”に翻弄されていく人々の想像を絶する葛藤を、このうえなくリアルに描ききった極上の心理スリラーなのである。

文/高橋諭治

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