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『クラユカバ』神田伯山がアフレコでみせたこだわりと並々ならぬ覚悟「一生懸命作られた作品を、声で壊すことはできない」

インタビュー

『クラユカバ』神田伯山がアフレコでみせたこだわりと並々ならぬ覚悟「一生懸命作られた作品を、声で壊すことはできない」

「声優と講談師、職種は違うけど似ているかもと思いました」

伯山曰く、アフレコと講談師の仕事には共通点があるという
伯山曰く、アフレコと講談師の仕事には共通点があるという撮影/黒羽政士

再び荘太郎を演じるにあたり実感したのはプロの声優のすごさだ。「講談師は感情を表現するのにあえて“余白”を使います。基本6、7割の感情移入をし、あとは余白を入れておかないと、野暮になって“クサい”と言われてしまうこともある。あえて感情を入れるみたいなこともやるのですが、基本的にはちょっと棒読みっぽくするんです。でも、声優さんはグッと、120%くらいの(感情の)入れ方をする。勝手の違いはかなりあると感じました」と解説した伯山。

一番驚いたのは自身の声の変化だった。「たった2年で声質って変わるんだとビックリして。『この声で大丈夫ですか?』と聞いたら『許容範囲です』って(笑)。声優さんは役の声をいつでもねらってパッと出せる。これが素人とプロの違いなんだと。しかも僕の場合、日を置くとブレちゃうから、正解がわからなくなってしまうんです。できることはとにかくボールを投げまくること。そうすればいい球を拾ってもらえるので。素人なりにいろいろなバリエーションでボロボロになるまで、投げまくりました」と苦笑いしながらも表情には充実感が漂っている。その理由は講談師の仕事にも通じるところがあったから。「古典講談はそもそも再放送のようなもの。微調整をして届ける、それをずっとし続けている作業なので、職種は違うけど似ているかもと思いました。妥協してあとで後悔するよりも、ヘトヘトになっても監督の満足するものを出したい。拾うほうは大変だろうけれど、僕にはいいプロセスでした。僕はラジオでもちょっとうまくいかないな、と思ったら視点を変えて録り直しをします」と、アフレコ自体は大変でも、性に合う作業工程だったようだ。

探偵社を営む荘太郎の声を神田伯山が担当
探偵社を営む荘太郎の声を神田伯山が担当[c]塚原重義/クラガリ映畫協會

銘酒屋街の隅に大辻探偵社を構える私立探偵の荘太郎は「ミステリアスでいて、芯がある。正義感もあってちょっとしたユーモアもあり、ニヒルなところもある。いままでの探偵像を崩していない、探偵らしい探偵だと思います」と印象を語る。「探偵の知り合いもいないし、実際どんな人がやっているのかはわからないけれど、探偵ってミステリアスだし、ちょっとグレーな感じの職業というイメージがあって。ある種、クラガリの世界に連れて行かれるみたいな出来事って、探偵という職業以外では成り立たないんじゃないかな。僕のなかで、いまだに探偵ってなんか幻想があります」と探偵に抱くイメージを語る。

演じるうえで一番気にしたという荘太郎の登場シーンについては、「『はい、大辻探偵社』と主人公が出てきて僕の声が流れてきた時に、『合わない』と思われるのはまずい。監督にもそういう意思はあったと思うし、僕も一番大事にしたところです。絵柄ももちろんですが、その声で荘太郎という人がどういう人生を歩んできたのかがわかる。探偵事務所のドアをガチャッと開けた時に、その人の心の奥底みたいなものがわかるような表現ができていたらいいなと、素人ながら思いましたね」と特別な想いを明かした。

伯山が最も大事にしたという、主人公、荘太郎の登場シーン
伯山が最も大事にしたという、主人公、荘太郎の登場シーン[c]塚原重義/クラガリ映畫協會

前作の舞台挨拶では塚原監督の魅力をたっぷりと語っていた。「とても変わった人ですよね。まず、帽子や服装が変わっている(笑)。でも、ビジュアルというのは自分が出したいものをアピールしているわけなので、大正レトロや昭和レトロな感じに憧れている空気感を漂わせていて、おもしろくてステキだと思います。過去にノスタルジーではなく敬意があり、現代に新しいものとして発表する。講談師にも似ているところがあるように思います」と共通点を指摘。さらに塚原監督の魅力は唯一無二なところだと力を込める。「あの絵柄、一目で塚原さんのだとわかるのがすごい。どんな世界でもそう。講談の世界なら声を聞いただけであの人だとわかるのと同じで、あの絵柄を見て塚原さんだとわかるのは、光っているということ。僕の知り合いからも『おもしろそうだね、絵柄が独特で』という声が多くあって。まず絵に惹かれるというのが、塚原さんの作品にはたしかにある気がします」。


探偵社に居着いている情報屋の少女サキ(声:芹澤優)
探偵社に居着いている情報屋の少女サキ(声:芹澤優)[c]塚原重義/クラガリ映畫協會

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