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『食人族』の新録日本語吹替版には実力派声優陣のあんな声まで…凄まじい作り込みをガチレビュー!

コラム

『食人族』の新録日本語吹替版には実力派声優陣のあんな声まで…凄まじい作り込みをガチレビュー!

実力派声優陣が『食人族』を盛り上げる!

さぁ、いよいよ吹替版のお話。最後の印象深い台詞を口にするモンロー教授役は、トム・ハンクスを担当していることでなじみ深い江原正士が演じている。モンロー教授はアカデミックな視点で冷静な態度を保つが、時折見せる怒気や愛嬌になんともいえない魅力がある。そんなモンロー教授の声に江原の吹替えはピッタリだ。劇中、食人族にコンタクトを取るために全裸になり、部族の女性にからかわれる場面に魅力が凝縮されている。

残されたフィルムにはあまりにもおぞましい光景が記録されていた
残されたフィルムにはあまりにもおぞましい光景が記録されていた[c] F.D. CINEMATOGRAFICA S.R.L. 1980

とはいえ、よく仕事を受けたなあ…。モンロー教授はともかく、ギタギタにされる撮影隊の役なんて誰がやるんだよ!なんて考えていたら、撮影隊のメインカメラマン、マーク役を演じた平林剛は、自ら吹替版制作の情報を得て志願したのだという。カメラマン役ゆえに画面には出てこないものの、美声で撮影隊に始終ツッコミを入れる立ち位置だ。串刺しにされた部族の女性を前に、ヘラヘラと笑う撮影隊リーダー、アランに対し「笑うなアラン、撮ってるぞ!」と戒める名場面で魅せる声は、『チャーリーズ・エンジェル』(19)のチャーリー役とはひと味違って若々しく新鮮。

そして撮影隊の悪鬼であり、本作の悪評の権化と言える男女。アラン役をジャック・ブラックやアニメ「名探偵コナン」の小嶋元太などを担当している高木渉、フェイ役をマーゴット・ロビーやエミリー・ブラントといった押しが強い俳優の声で知られる東條加那子が担当している。この方々があんな声やこんな声で『食人族』を盛り上げるのだから必聴必見だ(なにをするかは…伏せ字になるのであえて書かないよ!)。

殺人疑惑に動物虐待…スキャンダルやトラブル、論争は40年以上経ったいまも絶えない
殺人疑惑に動物虐待…スキャンダルやトラブル、論争は40年以上経ったいまも絶えない[c] F.D. CINEMATOGRAFICA S.R.L. 1980 ※モザイクは編集部による自主規制

食人族に性器を切り取られる無残な最後を遂げる貧乏クジなジャック役には、多方面で活躍している岩河拓吾が抜擢。毎度取り沙汰されるネズミを解体するシーンで活躍するミゲル役は、高野憲太朗が臆することなく演じている。また横柄だが心強い現地ガイドのチャコは、レイ・ワイズやアンソニー・ホプキンスの吹替えでなじみ深い浦山迅だ。

「野蛮とはなにか?」がより浮き彫りになる吹替版

『食人族』の吹替えに、ここまでコストをかけてどうするんだ!?と思ってしまうが、作り込みが凄まじい。通常はオリジナル音声を流用してしまうような、息づかいや悲鳴、ガヤの声などもすべて吹替えており、おざなりにされがちなホラー映画の吹替版とは一線を画す仕上がりだ。

「映画はオリジナル音声が一番。吹替版に興味はない。吹替えなんて入れずにソフトの価格を抑えてほしい」という方も多数いらっしゃるだろう。しかし、そんな方にこそ本作の吹替版を観てほしい。クオリティの高さはもちろん、それぞれの演技力の高さ故、『食人族』の着地点、「野蛮とはなにか?」がより浮き彫りになることに気付いたのだ。

【写真を見る】ぱっくり開いた人体に本物の亀を解体…直視できない“緑の地獄"に阿鼻叫喚
【写真を見る】ぱっくり開いた人体に本物の亀を解体…直視できない“緑の地獄"に阿鼻叫喚[c] F.D. CINEMATOGRAFICA S.R.L. 1980

また、20世紀のイタリア映画は各国で吹替えられていることを前提にしているので、オリジナル音声自体が粗雑であることが多い。ルチオ・フルチ監督作品では役者自身が「どうせ吹替えられるから、数字でも数えていればいい」なんて軽口を叩いたことはよく知られたこと。『食人族』が雑な音声かというと、そうではない(はず)なのだが、母国語で映画を観る体験は重要だ。ヨーロッパ方面では字幕文化はあまりなく、吹替が主流となっていることもうなずける(識字率の問題もあるのだが、それはまた別のお話)。

吹替版『食人族』は、緑の地獄(グリーン・インフェルノ)をリアルにかつ、身近な存在にする重要な“バージョン"となるだろう。


文/氏家譲寿(ナマニク)

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