足フェチの向こうにある美学とは?『富美子の足』ウエダアツシ監督を直撃|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
足フェチの向こうにある美学とは?『富美子の足』ウエダアツシ監督を直撃

インタビュー

足フェチの向こうにある美学とは?『富美子の足』ウエダアツシ監督を直撃

『下衆の愛』(15)の内田英治、『桜ノ雨』(15)のウエダアツシ、『オー!ファーザー』(13)の藤井道人という気鋭の若手映画監督3人が、耽美派の文豪・谷崎潤一郎の小説3作品を原案に、現代劇3本を撮ったプロジェクト「TANIZAKI TRIBUTE」。谷崎文学のフェティシズム、サディズム、マゾヒズムが、三者三様のフィルターを通して描かれる。その中の1本『富美子の足』(2月10日公開)を手掛けたウエダ監督にインタビュー。

富豪の老人・塚越(でんでん)は、デリヘルで見つけた富美子(片山萌美)を愛人にし、日々彼女の美しい足を愛でながら生活している。ある日塚越は、甥であるフィギュア作家の野田(淵上泰史)に、富美子の足をモデルにした等身大フィギュアを作るよう依頼する。

原作では足の絵を描くという設定を、現代性を持たせるために足のフィギュアを作るという設定にシフトさせた点が上手い。ヒロイン・富美子役を務めたのはグラビアでも人気の高い女優・片山萌美。本作では、完璧なフィギュアにも引けを取らない、ほれぼれするような脚線美を披露している。

キャスティングの決め手は足だけではなかった。「足もきれいですが、女優としてのやる気を感じたし、美しさの中にちょっとした儚さもあり、70年代の女優さんのような佇まいがある。原作は男2人が主人公の話ですが、今回は富美子を主人公にしたストーリーとして膨らませていきました」。

富美子の足をいかに艶かしく、きれいに見せていくかが勝負となる本作。ウエダ監督も「どう足フェチの世界を作り上げていくか」に注力したという。

「足は基本“縦”に長いものなので、シネスコの横のサイズで収めるのが難しかったです。画面をスマホみたいに縦にするわけにはいかないから、寝転がって足を上げるポーズにするなど工夫が必要で。特に日本家屋は狭く、撮影するにしても引き尻(カメラの後ろのスペース)が取れなかったりする。足好きの人が観ても満足してもらえるよう、僕とカメラマンは撮影前に夜な夜な想定されうるポージングを実際にしながら、カット割りを考えました」。

ウエダ監督といえば『リュウグウノツカイ』(13)、『桜ノ雨』(15)、『天使のいる図書館』(17)と、これまで若手女優のみずみずしい演技を引き出してきたが、今回は初の濡れ場シーンに挑戦した。

「片山さんはグラビアを撮られているので、恥ずかしがらずに人前で堂々と肌を見せられるという点がありがたかったです。僕も以前、グラビアを撮っていたので、その辺の感覚はわかるというか。もちろん気は遣いますが、ほかのシーンと同じように撮れました。今回は過去に濡れ場を何度も演じている淵上泰史さんがいてくれたのも心強かったです」。

塚越が、富美子の足に蜂蜜がしたたり落ちる様子を眺めながら興奮するシーンは、ピチャピチャという効果音も相まって、実にエロティックだ。ウエダ監督は「塚越は変な嗜好の持ち主ですが、谷崎潤一郎は小説の中で自分自身を重ねていたんだろうと思って。僕はでんでんさんに谷崎を反映したかったんです」と言う。

「谷崎作品にはストレートな性描写ってそんなになくて、『富美子の足』にも出てこない。世間的には官能小説みたいに誤解されているところがあるけど、実はそうじゃなく、もっと先に行っている人たちの話。性的な興奮はするんだろうけど、フェチ行為の延長線上にセックスがない人たち。セックスが頂点ではなく、いわば塚越は、富美子の足を美術品のように見ている。富美子の嫌がっている顔や声を含めて、塚越は芸術としてそれを堪能していたというふうにとらえました」。

「美しさってのは、人を人でないものに変えてしまう力だ!」と叫ぶ塚越。野田と塚越が、鼻息を荒らしながら富美子の足をこぞって舐め回すシーンは思わず笑ってしまう。

「淵上さんは、ここまでギアを入れるんだ!と驚くシーンがけっこうありました。彼が暴れれば暴れるほど、でんでんさんもそれを超えようと演じ、2人が現場でやり合ってくださった。非常に良いグルーヴができていました」。

塚越と野田の足への偏愛ぶりはなんとも滑稽だが、どこか可愛らしくもあるのは、ウエダ監督の目線が人間愛に満ちているからかもしれない。最後に、「TANIZAKI TRIBUTE」への思いと、今後の抱負について語ってくれた。

「3人の監督がそれぞれの嗜好で谷崎潤一郎を撮っているので、3本のシリーズとしても観ていただきたい。今回は比較的自由にやらせてもらったので楽しかったし、新しい挑戦もできました。また、これまで僕は4本の劇場用映画を撮ってきましたが、4作品とも全部違うタイプの映画です。今後も幅広くいろんなジャンルに挑戦していきたい。その中で自分にしか撮れない映画みたいなものを探求していけたらいいなと思っています」。

取材・文/山崎 伸子