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韓国映画界期待の俊英ファン・ドンヒョク監督が明かす、“負の歴史”への挑戦

インタビュー

韓国映画界期待の俊英ファン・ドンヒョク監督が明かす、“負の歴史”への挑戦

1636年に勃発した「丙士の役」の真実を、イ・ビョンホンとキム・ユンソクら韓国映画界でトップクラスの俳優を集めて映画化した『天命の城』(6月22日公開)。メガホンをとったファン・ドンヒョク監督は、この「丙士の役」という出来事について「韓国人にとって、口に出したくない事件だと思っています」と説明する。

17世紀半ば、中国全土を支配していた明が衰退し、代わって勢力を増した清が朝鮮に侵略したことで始まったのが、丙士の役だ。「一国の王が他国の王の前で、地面に額を擦りつける降伏の儀式をさせられたこの事件は、古朝鮮からいまに至る長い歴史の中で最も恥ずかしいことだと受け止められています」と監督は語る。では、なぜそのような自国の汚点とも取れる題材を映画にしようと考えたのか?訊ねてみると「実は、この歴史を学校では詳しく教えてくれないんです」との答えが返ってきた。

「学校で教えられることは、この事件の断片的な部分。侵略されて降伏したこと、サムジョンドという場所で屈辱的な儀式をさせられたことだけで、それ以上のことを私自身も詳しく知らなかった」。そう語る監督にこの事件を映画化するきっかけを与えたのは、本作の原作であるキム・フンの小説「南漢山城」だ。「小説を読んで、それだけではないのだと知りました。屈辱的な歴史であることは確かですが、なぜそれが起きたのか、どんな過程があったのか。隠したり闇に葬ったりすることなく、多くの人と共有したいと思いました」。

韓国国内であっても“知られざる事件”の裏側を描きだした本作。近年韓国歴史劇がブームになっているとはいえ、日本人にとっては時代背景や登場人物たちの関係性を完璧に理解するのは容易ではないだろう。それでも監督は「身構えずに観てもらえれば大丈夫です」とにこやかに語る。「歴史背景を知らなくても、ありのままを観て歴史を学ぼうと思っていただければ、きっと理解していただけることがたくさんあるはずです」。

また本作は、日本を代表する音楽家・坂本龍一が初めて韓国映画の音楽を手掛けたことでも話題になっている。「『ラストエンペラー』や『戦場のメリークリスマス』の音楽はもちろん、映画音楽以外も大好きでずっと聴いていた。いつか機会があれば坂本さんと組んでみたいと思っていたんです」と監督は熱く語る。そして「今回こそと思って連絡してみたら、快く引き受けてくださいました」とうれしそうに微笑んだ。

「私が想像できる以上の曲を作ってもらえるはずだと期待して、坂本さんには『思い通りに作ってください』とお願いしました」と、楽曲制作の経緯を明かした。何度もフィードバックを重ねながら調整していき、完成した曲を聴いた時の心情を「本当にうれしかった」と振り返り、「彼なりのアプローチで、映画のレベルをワンランク引き上げてくれました。本当に満足しています」と満面の笑みを浮かべる。

ファン・ドンヒョク監督と言えば、過去には、児童への性的虐待の事実を暴いた『トガニ 幼き瞳の告発』(11)で韓国社会に大きな衝撃を与え、法改正のきっかけを作り、続く『怪しい彼女』(14)は中国、ベトナム、日本でリメイク版が製作され、今後もインドネシアやインド、タイ、ドイツ、そしてハリウッドでリメイクがされることも決定している。

ひとつの映画で大きなムーブメントを引き起こす力を持つ監督が、様々なこだわりと想いを詰め込んだ本作は、我々にとっても、歴史との向き合い方に大きな変化をもたらしてくれるのではないだろうか。

取材・文/久保田 和馬

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