「双子は自然が生んだ傑作」フランソワ・オゾン監督がミステリーの本質を語る|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
「双子は自然が生んだ傑作」フランソワ・オゾン監督がミステリーの本質を語る

インタビュー

「双子は自然が生んだ傑作」フランソワ・オゾン監督がミステリーの本質を語る

『8人の女たち』(02)『スイミング・プール』(03)『危険なプロット』(12)などで知られ、日本にも多くのファンを持つフランスの名匠フランソワ・オゾン。作品ごとに異なる個性を見せてきたオゾン監督が、新たに手がけた心理サスペンス『2重螺旋の恋人』が8月4日(土)に公開される。「観終わったあとも頭の中で続いていくような映画が好きだ」と語るオゾン監督に、複雑でミステリアスな本作の話を聞いた。

観客の心をつかむ、“オゾン流”ミステリーとは?
観客の心をつかむ、“オゾン流”ミステリーとは?

双子、鏡、美術品…視覚的に張り巡らされた“伏線”

主人公は原因不明の腹痛に苦しむ女性クロエ(マリーヌ・ヴァクト)。精神分析医の優しいポール(ジェレミー・レニエ)と出会い恋に落ちた彼女は、やがてポールの双子の兄弟で同じく精神分析医のルイ(ジェレミー・レニエ:二役)に出会う。クロエは、容姿は同じだが性格は正反対の、傲慢で挑発的なルイとの関係にのめり込んでいく。

「ずいぶん前から双子というテーマに興味を持っていたんだ。双子というのは、自然が生んだ傑作だと思う。同じ体の人間が2つ存在する。この驚異を映画で展開させたいと思った。そこでアメリカの作家ジョイス・キャロル・オーツの短編小説を基に、ある女性が恋人の精神分析医に同じ職業の兄弟がいることを知るという出発点をそのまま使って、さらに心理的にして最後に医学的な新事実を付け加えていったのさ」

映画を構成するにあたり、視覚的な要素にこだわった。「すべての美術、ビジュアルが人物たちの内面を表している。鏡とか、鏡に映る反射とか、建築物とか。特に20年代から30年代くらいのシンメトリーを重視した壮大な建築を探した。クロエは美術館で監視員をしているのだけれど、これも原作にはない私が足した設定。登場する美術品はすべてこの映画のためにクリエイションしたもので、クロエの無意識を反映している。それがなんなのかは、映画の最後に明らかになる」。

美しい映像と大胆なトリック…いくつもの謎が絡まり合う
美しい映像と大胆なトリック…いくつもの謎が絡まり合う[c]2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU

“女”を描き続けてきたオゾン監督の新たなヒロイン像

クロエを演じるのは、オゾン監督とは『17歳』(13)でも組んだマリーヌ・ヴァクト。嘘と真実、妄想と現実の狭間に落ちていくヒロインを体当たりで演じ、観客を迷宮へと誘う。「ポールは精神科医でもあるし、クロエは彼に自分のことをすべて話す。でも次第に彼女は気づく。自分は彼のことを何も知らないと。そして彼女は一種のパラノイアになってしまう。一体私の目の前にいるこの男の人は誰なんだろうと。どんどん疑惑が深まっていったところで、ポールと全く同じ顔をしたルイが登場する」。

これまでにも多くの女性たちを描いてきたオゾン監督だが、今回のヒロインは、新たなアプローチとなった。「これまでの人物に比べてずっと苦しんでいるし、アイデンティティを探し求めている。これまでの私のヒロインは、どちらかというと、いろいろ探索しながらも、最後にはポジティブに学んで終わることが多かった。今回のクロエは、苦しんで、最後どうなるのか。彼女は1つの事実を発見するけれど、結局彼女がよくなるかどうかは、それぞれの観客の想像に任されている。かなりバイオレントなラストが待っているよ」。

クロエはルイと出会い、少年のような風貌から大人の女の顔へ
クロエはルイと出会い、少年のような風貌から大人の女の顔へ[c]2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU

観る者を翻弄する“オゾン流”ミステリーの神髄とは?

オゾン監督からの挑戦状ともいうべき本作だが、監督自身がトリックについて少しのヒントをくれた。「このスリラーは、結局クロエが自分自身のミステリーを解いていく、自分自身を探索していく物語。私は観客に、ヒロインの頭の中、体の中にダイブしてほしいと思って作った。最初の10分だけに言葉を凝縮して、あとは視覚的に語る、あえてそうした構成にしているんだ」。

そのヒントを知った上でも、謎の解き方は人によって分かれるだろう。それは監督の願いでもある。「私は映画のイチ観客としてミステリーが好きで、すべてを説明してしまわない映画が好きだ。映画というのは開かれた扉。観客がその中に入り、観終わったあとも頭の中で続いていくようなものがいい。だから私は、答えを全部は与えない。私は、質問をするためにいるのが映画監督だと思っている」と真摯に信念を語りながら、同時に多くの人に観てもらえるよう「でも、4回観れば謎はわかるよ」といたずらっぽく笑った。

取材・文/望月ふみ

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