『寝ても覚めても』で新星・唐田えりかを覚醒させた“濱口メソッド”とは?|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『寝ても覚めても』で新星・唐田えりかを覚醒させた“濱口メソッド”とは?

インタビュー

『寝ても覚めても』で新星・唐田えりかを覚醒させた“濱口メソッド”とは?

『寝ても覚めても』で商業映画監督デビューを果たした濱口竜介監督
『寝ても覚めても』で商業映画監督デビューを果たした濱口竜介監督[c]2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINEMAS

商業映画監督デビュー作ながら、第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、高い評価を受けた『寝ても覚めても』(公開中)の濱口竜介監督。主演は映画やドラマに引っ張りだこの東出昌大だが、本格的演技が初めてとは思えない新星・唐田えりかのフレッシュな魅力も出色である。唐田自身も「10代最後の夏、大恋愛しました!」という熱いコメントを寄せている本作で、濱口監督はどのようにして、新人から女優魂を覚醒させたのか?その演出法に迫る。

原作は、芥川賞作家・柴崎友香の同名恋愛小説。21歳の朝子(唐田えりか)が、麦(東出昌大)と出会い、運命的な恋に落ちるが、その後、麦は突然姿を消す。2年後、朝子は大阪から東京に引っ越した先で、麦と瓜二つの亮平と出会い、戸惑いつつも、真っ直ぐに自分を愛してくれる亮平に惹かれていく。だが、朝子の心のなかにいるのは、常に亮平ではなく麦だった。

東京藝術大学大学院修了制作『PASSION』(08)で、頭角を表し、続く監督作『ハッピーアワー』(15)は、演技経験のない4人の女性を主演に迎えた317分という長尺映画だったが、国内外で映画賞を受賞。いずれの作品でも、まるでドキュメンタリーを観ているかのような自然体の会話劇や、揺れ動く登場人物の感情の渦に、心を鷲づかみされる。

東出昌大や唐田えりかを演出する濱口竜介監督
東出昌大や唐田えりかを演出する濱口竜介監督[c]2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINEMAS

唐田は、オーディションで朝子役に選ばれたが、キャスティングについての濱口監督の持論が興味深い。「東出さんや唐田さん、ほかのキャストも全員そうですが、演技が上手いとか下手とかはどうでもいいと思っていて、大事なのはその人が魅力的かどうかです。言葉を発した時、魅力的に感じるかどうかが大切で、それがカメラに映るはずだと僕は思っています」。

すなわちキャスティングをした時点ですべてが決まるのだとか。「オーディションの時、唐田さんの声がとても良いと思ったし、朝子役に必要な要素があるなと思いました。そして彼女自身がとても魅力的な人だと思ったので、その唐田さんが台詞を言ってくれれば大丈夫だと思いました」。

それにしても、新人である唐田はまだ経験も浅いなか、会話のキャッチボールにまったく芝居臭さがない。きっと濱口監督ならではの演出方法があるのではないか?すると濱口監督は「台本読みをたくさんしているからかもしれない」と答えてくれたが、その台本読み自体も、通常の方法とは少し違うようだ。

「いわゆる台詞として『こういうふうに言ってください』とリクエストすることは一切ないです」という監督は、こう続ける。「むしろ『台詞のニュアンスを一切抜いて読んでください』とお願いします。棒読みとは違うと僕自身は思っているのですが、とにかく余計なものを取った状態で、何度も体に染みつくまで台本を読んでもらうようにしています。その状態で現場に行って、そこでは『ニュアンスを抜く』こと自体を忘れてもらい、その場に応じて台詞を言ってもらうんです」。

いわゆる役作りとも少し違い、どちらかというと、反射的に台詞が出てくるところまで台本を読み込むということのようだ。「無理しなきゃいけないような台詞はできるだけなくします。もちろん、ドラマ上、言わざるをえない時もありますが、そういう時は、その台詞が自然に出るような物語の流れを作るように心がけています」。

つかみどころのない飄々とした青年・麦と、ほがらかで誠実な亮平の2役を演じた東出昌大
つかみどころのない飄々とした青年・麦と、ほがらかで誠実な亮平の2役を演じた東出昌大[c]2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINEMAS

また、主演の東出昌大への信頼感も大きかったという。「リハーサルをやっていくなかで、東出さんが演技経験のない唐田さんをサポートしてくださるという関係性ができていきました。回を重ねていくうちに、唐田さんの不安感がどんどんなくなっていって、リラックスしていく様子をクランクイン前から遠巻きに見ていました。もちろん唐田さん自身も、自分は新米だという意識はあったので不安が全くないわけはないと思いますけど、他の共演者たちはみんな10年選手以上の芸達者な人たちばかりだったから、『頼ってください』と言ったと思います。皆さんの演技を見聞きして反応してくれれば、朝子役は成立するはずだと確信していたので」。

完成した映画には、すでにベテラン監督作の風格さえも感じられる。そんな濱口監督が敬愛してやまないのが、『グロリア』(80)や『ラブ・ストリームス』(84)のジョン・カサヴェテス監督だ。「大学2年生の時に初めてカサヴェテス監督作を観ましたが、それが決定的な体験でした。当時、カサヴェテス特集をやっていたのが配給会社のビターズ・エンドさんで、今回、ビターズ・エンドさんから商業映画監督デビューをさせてもらって、僕は幸せです」。その前途洋々とした表情が印象的だった。

取材・文/山崎 伸子

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    3.6
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