池脇千鶴、デビューして21年。女優という生き方を選んで「いますごく幸せ」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
池脇千鶴、デビューして21年。女優という生き方を選んで「いますごく幸せ」

インタビュー

池脇千鶴、デビューして21年。女優という生き方を選んで「いますごく幸せ」

『ジョゼと虎と魚たち』(03)、『そこのみにて光輝く』(14)での熱演も高い評価を受け、名作と言われる数々の映画・ドラマで存在感を発揮してきた女優・池脇千鶴。森沢明夫の同名小説を映画化した『きらきら眼鏡』(9月15日公開)では、余命宣告を受けた恋人と向き合う女性・あかねの生き様を切なさと母性たっぷりに体現した。幼いころから女優に憧れていた池脇は、その情熱の火を絶え間なく燃やし続け、デビューして21年経ったいま「女優という生き方を選んで、すごく幸せ」と柔らかな微笑みを見せる。

恋人の死を乗り越えられずにいた青年・明海(金井浩人)が、いつも前向きで笑顔の女性・あかね(池脇)と出会い、次第に彼女に惹かれていく姿を描く本作。脚本を受け取った池脇は「誰もが悲しいことや辛いことを抱えていても、必死に生きている姿が描かれていました。死という重いテーマに向き合いながらも、とても優しいお話だと思いました」と惚れ込んだという。

演じたあかねは、心にかける眼鏡=“きらきら眼鏡”をかけている女性。“きらきら眼鏡”とは、なにもない空に美しさを感じるなど、見たものすべてを輝かせるような眼鏡だ。いつも笑顔を絶やさないあかねだが、実は余命宣告を受けた恋人と過ごしているという難しい役どころ。しかし「難しい役だとは思わなかった」そうで、「台本がとてもすばらしかったので、迷いなく読み進めることができたし、登場人物の心情も手に取るようにわかった。私は台本に描かれていることを信じて、それをやるだけでよかったんです」と語る。

あかねとして生きるうえで大事にしたのは、「笑顔でいること。倒れそうな状況でも、しっかりと立とうとすること」だという。「笑顔でいることが、あかねが立つための術。そうすることで、なんとか踏ん張って、崩れないように、倒れないようにしている」と奥底の悲しみを笑顔で包んでいる女性だと話す。

「あかねはいい子過ぎるし、頑張り過ぎだなと思いました。私だったらそこまで頑張れない。愚痴だってこぼしちゃう!」とお茶目に笑い、自分とは「あまり似ていないかも」と告白。「私はちょっと変わった役を演じることも多いんですが、あかねはとても普通の人。役作りのためになにか習得したり、特別なことをしなければいけなかったりすることもなく、彼女の心持ち、生きてきた人生を胸のなかに入れただけ」という彼女。役作りは、そのキャラクターを丸ごと、自分のなかに入れる行為だと言う、まさに憑依型の女優だ。

第8代リハウスガールとして15歳で芸能界デビューした池脇だが、もともと女優志望でこの世界に足を踏み入れた。「私はこのまま、この仕事を続けていていいんだろうか?とか、そういう波が来たことってないんです」と女優という道に迷いが生まれたことは一度もないそう。「自分ではない、誰かの人生を生きられる。そこが醍醐味」。

「ただただ、がむしゃらでした」と振り返る10代。その後も「もちろん、それぞれの現場で辛かったこともあります。何度やってもOKがもらえず、監督に怒鳴られたり。なにを悩んだらいいのかわからないくらい、パニックになったこともあります。苦しいけれど、楽しいし、やったあとの充実感もある。誰がなんと言おうと、私はやったぞ!って(笑)」と一途に歩んで来た。

「自分がいいと思える作品に出たい。自分が演じる役は、物語にちゃんと溶け込んで、そこで生きたいというのはずっと変わらない目標。作品を観ている方に『この子、浮いているな。大丈夫かな?』と思われるのは絶対にイヤなんです。そうすると物語が台無しだし、一気に冷めてしまう。そういった想いは10代のころから持っていました。大きな目標だから、ブレないのかな」と柔らかに微笑みながらも、驚くほどの芯の強さを覗かせる。

ここ数年の出演作を見ても、『きみはいい子』(15)、『怒り』(16)、『万引き家族』(18)など、国内外で話題となった傑作ぞろい。主役に限らず、「脚本を読んで、おもしろいか、おもしろくないか。自分の勘に頼って」と作品を選んでいるという。「『きらきら眼鏡』を選んだ時は、優しいものに飢えていたのかも」とコロコロと笑う姿が愛らしい彼女は、「ハードなものをやり過ぎると、今度は優しいものに惹かれたり、停滞してきたなと思ったら、次には刺激的なものに惹かれたり。本当に勘であり、その時の気分なんですよ」といつも直感を大切にしている。

今年でデビューして21年。励みになるのは、「観てくれた方の意見や反応」。そして、ものづくりにかける先輩や仲間の存在だ。「ある監督は、私のことを『カメラに愛されている』と言ってくださった。ある女優さんは『遠慮はしないでいいからね』と言ってくださった。私は本当に先輩に恵まれていて、皆さんにかわいがられて、ここまで来れました」と感謝の想いがあふれる。「女優という生き方を選んで、いますごく幸せです」と語る笑顔は、こちらがドキリとするほど美しく、キラキラと輝いていた。

取材・文/成田 おり枝

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