『カメラを止めるな!』監督と脚本指導が明かす、「物語の作り方」【榎本憲男×上田慎一郎 特別対談 第1回】 - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『カメラを止めるな!』監督と脚本指導が明かす、「物語の作り方」【榎本憲男×上田慎一郎 特別対談 第1回】

インタビュー

『カメラを止めるな!』監督と脚本指導が明かす、「物語の作り方」【榎本憲男×上田慎一郎 特別対談 第1回】

『このメンバーだったら行ける』と思った作品、役者それぞれに見せ場を作りたかった。(上田)

【写真を見る】記録的ヒットとなった『カメラを止めるな!』創作の背後で歩んだ“いばらの道”とは?
【写真を見る】記録的ヒットとなった『カメラを止めるな!』創作の背後で歩んだ“いばらの道”とは?[c]ENBUゼミナール

さらに上田監督は「榎本さんは遠慮がない。『(台詞と台詞の間に挿入される)この「……」はなに? 台詞が思いつかないから「……」って書いてごまかしてるんじゃないの?』とか、ほかの人が言わないような細かいことを言ってくるんです(苦笑)。座学で話していたこともやたらと高度で、僕は映画学校に行っていないので、三幕構成などの超基本もこの座学で初めて知ったんですが、そこからさらに理論的なことがめちゃめちゃ高度になっていった。また、個人に対する指導も容赦がないので脱落する人もたくさんいました(笑)。僕はそういうのが大丈夫なタイプなんですけど」と思い返すと、「ちょっとしたアドバイスがもらいたくてきた人はどんどん辞めたね。ただ、上田くんは、アドバイスのもらい方がすごく上手いんですよ。指導され上手だよね」と、榎本氏は苦笑いしながらも上田監督の柔軟さを讃える。

これを受けた上田監督は「僕の性格がこうだからかもしれないですけど、現場でも、ずっと一緒にやってきた撮影や録音のスタッフは、自分のパート以外にも意見を言ってくるんですよ。録音の人が『ここの感情ってこうなんじゃない?』とか。僕もそれがいいなと思ったら素直にもらいます。ただ、榎本さんに反論したこともありました。榎本さんはキャストに会ってなくて脚本だけを見ているんです。で、榎本さんから『この台詞おもしろい? 削ろうよ』と言われた時、『いや、この役者が言ったらおもしろいんです』と抵抗しました。オーディションで12人の出演者を選抜し、ワークショップをしたうえで『このメンバーだったら行けるかな』と思ってやることにした作品なので、安くないワークショップ受講料を払って来ている役者それぞれに見せ場を作りたかった。そこを必然性のあるストーリーに仕立て上げるのはすごく難しかったですが、そういう状況も今回の映画にとってはうまく作用したのかもしれないですね」と、こだわりを明かした。

もうひとり、脚本作りの大きな助けとなったのが、上田監督の妻である映画監督のふくだみゆきさんだ。「妻も身内だから遠慮がない。そういう人が側にいたのは大きかったですね。妻には、男にはよくわからない女性の細かい描写の確認をしてもらったり、キャストに関してアドバイスももらいました。例えば、この子はお団子にして、この子はメガネをかけさせて区別がつくようにしたほうがいいよ、とか」と、頼れるブレーンぶりを紹介しながら感謝の意を表した。

シナリオの時点で“ライブ感”とか言っていたら、絶対ダメだったと思います。(上田)

緻密な脚本をベースにしているからこそ、ライブ感が際立つ作風が生まれた
緻密な脚本をベースにしているからこそ、ライブ感が際立つ作風が生まれた[c]ENBUゼミナール

しかし、そんなふうに脚本を練りに練っても、危うい要素を多分に含む本作。榎本氏が、「第一幕の37分はちょっと長すぎるんだよね、理論的には35分が限界だと言われているんだけど、2分長かった。でもそれがよい方向に作用したんじゃないかと思う。第二幕目に入ってからは、2分長く我慢した分の快感みたいなものがオマケみたいになっているんじゃないかな。あと、低予算で撮ったからこその緊迫感みたいなのがスゴイんですよ(笑)。この日数、予算、メンツで撮り切れるのか?という切迫した現場の緊張感が、サスペンスとなって画面に横溢していた。試写を観た時は『上田くん、やったな』と素直にうれしかった」と、果敢にチャレンジした上田監督を讃える。

すると監督は、「そうなんですよ。予算があって、上手い俳優がやっていたらソツなくこなしてしまうところを、本当にみんな必死でつないでいる。『自分として頑張っているのか、役として頑張っているのか、(撮影しているうちに)わからなくなっていった』と役者が言っていました。それで虚実入り混じるライブ感が出たのは大収穫だったなと思います。でも榎本さんは、そういう自分でコントロールできないものをあんまり許さないタイプかと思っていました」と、激賞が信じられない…といった面持ち。

榎本氏は、「ライブ感のある映画は大好きですよ。でも、ライブ感を狙って撮るのは嫌だよ、すんごくリスクがあるじゃん(笑)」とサラッと言い切り、上田監督も「そういう榎本さんが最初にガッチリ固めてくれたので、僕らが覚束なかったところがブーストされ、ちょうどいい塩梅になったんだろうなと。もし、シナリオの時点でライブ感だとか言って書いていたら絶対ダメだったと思います」と、晴れ晴れとした表情で感謝を述べた。

<榎本憲男×上田慎一郎 特別対談 第2回に続く>

取材中には、お2人の強固な信頼関係が垣間見えた
取材中には、お2人の強固な信頼関係が垣間見えた

取材・文/深谷直子

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