【追悼】イタリア映画の偉大な“マエストロ”、ベルナルド・ベルトルッチ死去|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
【追悼】イタリア映画の偉大な“マエストロ”、ベルナルド・ベルトルッチ死去

コラム

【追悼】イタリア映画の偉大な“マエストロ”、ベルナルド・ベルトルッチ死去

審査員長を務めた第70回ヴェネチア国際映画祭でのベルナルド・ベルトルッチ監督
審査員長を務めた第70回ヴェネチア国際映画祭でのベルナルド・ベルトルッチ監督写真:SPLASH/アフロ

2018年11月26日、ベルナルド・ベルトルッチ監督が亡くなった。77歳だった。ルキノ・ヴィスコンティ監督やフェデリコ・フェリーニ監督、ロベルト・ロッセリーニ監督など名だたる偉大な作家たちを輩出したイタリア映画界のイメージもあいまってか、彼の作品は不思議と荘厳で敷居が高いイメージを持たれているように思える。しかし、実際は繊細で危なっかしい青年の姿をまざまざと映しだす、青春ドラマ界の “マエストロ”であったように思えてならない。

ベルトルッチが、師事していたピエル・パオロ・パゾリーニ監督原案の『殺し』(62)で監督デビューを果たしたのはわずか21歳のことだ。それから『革命前夜』(64)、『ベルトルッチの分身』(68)と野心的な作品を次々に発表して頭角を表し、29歳の若さで『暗殺の森』(70)を発表する。日本で最初に公開されたベルトルッチの作品となった同作は、イタリア映画でありながらアメリカのアカデミー賞で脚色賞にノミネートされるなど、世界的な地位を得る大きなきっかけとなった。

ベルトルッチ監督が初めてアカデミー賞監督賞にノミネートされた『ラストタンゴ・イン・パリ』より
ベルトルッチ監督が初めてアカデミー賞監督賞にノミネートされた『ラストタンゴ・イン・パリ』より『ラストタンゴ・イン・パリ オリジナル無修正版』Blu-ray発売中 1,905円+税 フォックス[c]2017 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. (edited)

その矢先に発表した『ラストタンゴ・イン・パリ』(72)は大きな物議を醸し、本国イタリアで上映禁止処分を受け裁判にまで発展する大騒動となる。それでもベルトルッチは同作で初めてアカデミー賞の監督賞にノミネートされ、その15年後には清朝最後の皇帝・愛新覚羅溥儀を描いた『ラストエンペラー』(87)でアカデミー作品賞や監督賞などノミネートされた9部門すべてを受賞する圧勝劇。アカデミー賞におけるアメリカ資本でない作品の最多受賞記録を樹立し、いまだ破られていない。

90年代には低迷していたベルトルッチだが、03年に発表した『ドリーマーズ』で再び輝きを取り戻す。五月革命のパリを舞台に、留学生の青年と双子の姉弟の親密な関係を、ベルトルッチ自身も影響を受けたヌーヴェルヴァーグ期の名作をはじめとした様々な映画のオマージュと共に描きだした同作。ジャン=リュック・ゴダール監督の『はなればなれに』(64)の劇中に登場する、ルーヴル美術館を走り抜けて一周するという“最短見学記録”を更新して見せた(先日公開されたアニエス・ヴァルダ監督の『顔たち、ところどころ』で記録は塗り替えられるが)。その映画愛を前面に押し出した作風に、多くの映画ファンが魅了されたことは言うまでもない。

その後、闘病のために車椅子での生活を余儀なくされていたベルトルッチだったが、ニコロ・アンマニーティの小説に魅了されて、それを原作にした『孤独な天使たち』(13)で復活。劇中で流れるデヴィッド・ボウイの名曲の詞を体現するかのように、ヤコポ・オルモ・アンティノーリが演じる主人公に寄り添い、デア・ファルコ演じるオリヴィアの複雑でミステリアスな魅力を引き立てる。若い登場人物の精神性を徹底的に掘り下げた本作は、極めてシンプルな作品でありながらもベルトルッチという作家のすべてが凝縮された、誇るべき遺作となったと言ってもいいだろう。

遺作となった『孤独な天使たち』のキャストとベルトルッチ監督
遺作となった『孤独な天使たち』のキャストとベルトルッチ監督写真:SPLASH/アフロ

厳密に言えば、彼自身が審査員長を務めた第70回ヴェネチア国際映画祭で、70周年を記念して制作された短編オムニバス映画『Venezia 70-Future Reloaded』の一編「Scarpette rosse」がベルトルッチ最後の映像作品でもある。電動車椅子の車輪がゴツゴツした石畳の上を進むなか、シャルル・トレネの「私は歌う」が流れる2分に満たない映像であり、ヴェネチア国際映画祭の公式YouTubeチャンネルで観ることができる。

2013年に初期3作がデジタル・リマスター版として日本公開され、今年の夏には隠れた名作として名高い『暗殺のオペラ』(70)もデジタル・リマスター版として上映されるなど、近年再評価が進んでいたベルトルッチ監督。その訃報があまりにも惜しいことは言うまでもないが、16年に発覚した『ラストタンゴ・イン・パリ』の撮影時における新たな問題が、釈然としないままになってしまったことがなによりも気がかりだ。

同作での暴行シーンが、マリア・シュナイダーの承諾を得ずに撮影されたというベルトルッチの告白から大きな物議を醸し、多くの著名人から非難が殺到。その後、ベルトルッチは「バターを使う」こと以外すべてマリアは知っていたのだと釈明している。マーロン・ブランドは04年に、マリアは11年にこの世を去っているだけに、その真相はもう誰にもわからないことなのかもしれない。

16年には暴行シーンの舞台裏をめぐり大きな論争が巻き起こる
16年には暴行シーンの舞台裏をめぐり大きな論争が巻き起こる『ラストタンゴ・イン・パリ オリジナル無修正版』Blu-ray発売中 1,905円+税 フォックス[c]2017 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. (edited)

いずれにしても、ベルナルド・ベルトルッチは20世紀の映画界を代表する偉大な作品を数多く生みだした優れた映画作家であったことは胸を張って評価すべきだろう。改めて“マエストロ”の冥福を祈ると共に、彼の遺した16本の長編映画といくつかの短編作品を後世に語り継いでいきたい。

文/久保田 和馬

関連作品