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世界中の映画祭を席巻した『シングルマン』トム・フォード監督にインタビュー

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世界中の映画祭を席巻した『シングルマン』トム・フォード監督にインタビュー

主演を務めたコリン・ファースがアカデミー賞主演男優賞にノミネートされるなど、世界中の映画祭で多数の賞に輝いた注目作『シングルマン』(10月2日公開)。日本公開を控えたトム・フォード監督がインタビューに応じた。

――『シングルマン』を作るきっかけを教えてください。

「20代前半の1980年代初頭にロサンゼルスに住んでいた時、小説『A Single Man』を初めて読んで、すぐに虜になったよ。その物語の誠実さとシンプルさに感動を覚えたんだ。3年前、自分の監督デビュー作にとって最適な作品を探していた私は、自分がこの小説のことと、主人公ジョージのことを頻繁に考えていたことを思い出した。『シングルマン』は我々全員が感じる孤独を描いていて、それは人間性の一部だと思う。人間の魂は肉体によって隔離されているから、人は誰かと繋がりをもとうとする。この映画のメインメッセージは、“今を生きること”。毎日を最後の日だと思って生きることなんだ。映画化すると決めてからは、かなり長い間この作品に取り組んだよ。脚本は2年間断続的に作業したし、草稿もたくさん書いた。書きながらシーンを想像していた時は何の問題もなかったよ」。

――それから、監督は原作をもとに脚本を練り上げ、生きる意味を失って死のうと決意したジョージの1日というストーリーを付け加えることにしたのですか?

「ジョージは過去に生きていて、人生の変化を経験する。そしてこれからの人生が見えないんだ。ジョージはそのために自殺を決心する。そしてこの世で最後の日に、彼はすべてをまったく違う目で見始めるというわけだ。未来が見えず、深い絶望感を振り払うことができないから人生を終わらせようと決意する。だが最後に彼が目にするものによって、彼は世界を違う目で見始め、ここ何年で初めて今を生きている自分を見いだし、世界の美しさに直面する。これはタイムリーなテーマだ。我々の人生に与えられた贈り物を感謝することは、我々全員にとって、今だからこそもっと大切なのだと私は信じている」。

――自分自身が考えるトム・フォードとは?

「私がどんな経歴でどんな人間か、先入観を持ってこの映画を見た人の多くが驚くと思う。私はとてもロマンチックだし、しょっちゅう孤独を感じている。映画は、普段の私のイメージとは違うかもしれないからこそ、一番自分らしい作品と言えるだろう。ファッションは束の間だが、映画は永遠だ」。

――映画の製作過程はどのように進んだのでしょうか?

「これだけのキャストをそろえることができて幸運だった。彼らが脚本を気に入って、この仕事を引き受けてくれたことが本当に嬉しかった。この映画をこれまでやった仕事の中で最も重要な仕事として、私と一緒に作業してくれるチームが必要だったが、結果として、すべてが非常にスムーズに進んだ。撮影はたった21日間だったが、私の監督としての最大の強みは、大勢の人間と仕事をすることに慣れているということだね。私のビジョンを通して彼らの道案内をしながら、彼らの一番良いところを引き出し、それぞれにできる限り創造力を発揮してもらう演出法には慣れていたんだ。編集によってシーンや物語の意味が完全に変わってしまうなんて知らなかったので、6ヶ月間を費やした。ジョアン・ソーベルは、ひらめきのある編集者だし、私にとって最高の協力者だった。編集作業はルービックキューブのようで、映画の中に入り込み、あらゆる角度からひっくり返したり、ひねったりしながら編集していくが、本当に疲れ果てる作業だった」。

――主人公ジョージを演じたコリン・ファースについて教えていただけますか?

「コリンの役はキャスティングが一番難しかった。ジョージ役を演じる感受性をもった俳優は世界中にほとんどいないからだ。彼はすべてのシーン、すべての瞬間に登場している。大変だったと思うが、彼に失望させられたことは一度もない。本当のプロだ。素晴らしいよ。驚くべき俳優だった。特に表情が素晴らしい。何も動かさなくても、感情がわかる。考えていることがわかるんだ。カメラを長い時間、彼の顔に向けて撮影した。彼の表情をとらえるためだけにね。驚くべき表現力だ。コリンのすごいところは、目を通して、ほとんど顔も動かさず、セリフも言うことなく、思っていることを伝えられる才能だ」。

――チャーリーを演じたジュリアン・ムーアについては?

「チャーリーはその美しさで人生を築いてきた。そんな彼女も時間には勝てない。自分でできることはすべてやってきた。今彼女は、自分の美しさが消えていく岐路に差しかかっている。ジョージと一緒にいると、チャーリーは全然違う。そして、彼にとっても彼女は光だ。チャーリーはこの映画に新鮮な空気を与えている。ジョージとチャーリーには長い歴史がある。恋人だった時期もある。でもジョージは自分がゲイであることを自覚し、彼女とは気楽な関係でいたいが、チャーリーはもっとジョージを真剣にとらえているんだ」。

――ケニーを演じたニコラス・ホルトについても聞かせください。

「ケニーはジョージを信頼している。ジョージに興味を抱き、自分の疑問に答えてくれる人だと期待し、惹きつけられる。そしてジョージもまたケニーに惹かれている。もちろんジョージは教授という立場から、人を寄せつけないところがある。ケニーも人を寄せつけないキャラクターだ。ケニーは天使のような存在で、ジョージの心を、文字通り救い出すんだ。ニコラスは実に素晴らしかった。撮影時はまだ18歳だった。非常に真剣にプロに徹している彼の姿は、現実の面白いイギリス青年という印象とはかけ離れている。カメラの外での素顔は、ものすごく愉快な青年なんだよ」。

――最後に、トム・フォード監督からメッセージをお願いします。

「この映画で、人生の些細なことが本当は人生にとって大きなことなのだと、観客に伝えられればと願っている。素晴らしい映画は人の心に入り込む。そういう映画は、楽しませ、思考力を刺激する。『自分の一日に、自分の人生にもう少し注目してみよう』と思ってもらえたら嬉しいですね。人生最後の数時間でさえ、人々にそれを思い出してもらえるような影響を与え続けたいと思います」。

グッチやイヴ・サンローランを牽引し、稀代のカリスマデザイナーと呼ばれたトム・フォードの初監督作品『シングルマン』公開を楽しみに待ちたい。【MovieWalker】

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