塚本晋也監督が語る『鉄男THE BULLET MAN』マルチ・マテリアル・ヴァージョンとは?|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
塚本晋也監督が語る『鉄男THE BULLET MAN』マルチ・マテリアル・ヴァージョンとは?

インタビュー

塚本晋也監督が語る『鉄男THE BULLET MAN』マルチ・マテリアル・ヴァージョンとは?

美しい日本人の妻と幸せに暮らしていたアンソニー。“ヤツ”に最愛の息子を殺された彼の哀しみと怒りは自らの肉体を次第に鋼鉄の人間兵器へと変貌させ、東京全土を壊滅させる脅威になっていく。シリーズ誕生から20周年。全世界を熱狂させた全編英語による『鉄男THE BULLET MAN』が、11月4日(木)、早くもDVD&BDになって登場する。

鉄男の誕生の秘密を描いた本作はとてつもないインパクトだが、今回のDVD&BDにはかつてないボーナス映像【マルチ・マテリアル・ヴァージョン】を収録した特典ディスクがセットになっているのも見逃せない。いったいこれは何なのか? 塚本晋也監督にその製作意図を語ってもらった。

【マルチ・マテリアル・ヴァージョン】…聞き慣れない、というか、聞いたこともないこのヴァージョンは、メイキング映像にストーリーボード、イメージボード、シューティングフォトといったあらゆるマテリアルを駆使し、本編とまったく同じ音声とランニングタイムで再構成したもの。なんともユニークなアイデアだが、塚本監督は「最初にプロデューサーからこの話を聞いた時は、実は僕は首を傾げたんですよね」と告白する。

「面白いような気もするけど、何ができあがるのかよく見えないなと思ったし、一貫性も感じられなかったから。実際にやり始めて、最初に『こんな感触です』っていう映像を見た時も、これは難しい、無理じゃないかな? と思いましたね。ただ、特典映像の監督が普通の忍耐力の人だったら無理だったと思うんですけど、彼がかなり頑張ってくれて。素材そのものがないのに、まるであるかのようにオーダーを出した時も、色々工夫して頑張ってくれて(笑)。最終的には非常に興味深いものになりました」

その特典映像の監督は長岡広太。ぴあフィルムフェスティバル2002に入選した「黄金の月」など数多くの自主製作映画を発表し、現在はフリーランスの映像作家として活躍している逸材だが、それだけではない。

「もともと、すごくよく知っている人なんですよ。今回は僕のコネで彼に話がいったんじゃなく、プロデューサーがいつも仕事をしている制作会社に頼んで、そこが依頼したのが彼だったんですけど、実は僕の奥さんの弟なんです。だから、このDVD2枚組は、奥さんはもちろん、奥さんのご両親は嬉しいですよね(笑)。実の息子と新しい息子、ふたりが作ったパッケージですからね」

実際の作業は長岡広太が行い、塚本監督は時々彼にアドバイスをする形で進めていったという。「指針が分からなくなった時に意見を言ったり、本編の音と完全にシンクロすれば面白いのかどうかちょっとわからないところは、完全シンクロのシーンを際立たせるために、シンクロが崩れても別の何かを入れた方が良いんじゃないかってアイデアを出したり。そんなことを一生懸命やっているうちに、映画作りの雰囲気がぱっとわかるような、ちょっと不思議な味わいのものができました」

確かにメイキングほど説明的ではないし、劇映画のようなストーリーがあるわけでも、ドキュメンタリーのようなテーマに沿った視点があるわけでもない。だが、『鉄男THE BULLET MAN』から産み落とされたものとしか考えられない、なんとも異様な“匂い”をまとっている。

「ドイツから来たボランティアの人がメイキングを撮っていた時があるんですけど、彼が自分の8mm(フィルムの)カメラで撮った映像を冒頭に入れたんです。あれを見た時に勝算がつかめたような気がします。オープニングタイトルにあの画があることで、全体的に『鉄男』のいかがわしい匂いがぷ~んとついてきて、全編いかがわしい集団が、なんかいかがわしいモノを作っているというムードが出てきたんですね」

だが、大音響で細かい画が連続するオープニングこそ『鉄男』の世界観を踏襲しているものの、その次の本当の意味でのファーストカットでは、そのあまりにも突飛な画に虚をつかれる。何しろ、それは顔をマルと点で示しただけの絵コンテの人物のアップなのだから。

「僕はあれから始めるのだけは勘弁してださいって結構強く言ったんですよ(笑)。途中に出てくるのはマルバツでももうちょっと凝った絵だから良いんですけど、あれは本当にマルなんで、みんなズッこけるんじゃないかなと思って、抵抗があったんです。でも、プロデューサーがあのコンテにこだわっていたんですよね(笑)」

もちろんメイキングとしても楽しめ、例えばアンソニーと塚本監督自身が演じた“ヤツ”が壮絶なバトルを繰り広げるクライマックスが、意外な場所で、とても変わった撮り方をしていたことも知ることができるのだ。

「あれは、あるビルの床の隙間で撮っているんです。耐震構造か何かのために、そのビルの下は地面と密着してなくて。4点で支えているだけで隙間があったので、その隙間を縦のつもりで撮ったんですね。あのシーンはどうやって撮ろうかな?って本当に悩んでいたから、ロケハンであの隙間を見つけた瞬間は、ヤッタ!と思いましたよ」

最後に、この【マルチ・マテリアル・ヴァージョン】の楽しみ方を聞いてみると、「本編を見てから見ると、こういうものがどうやってできあがるのか、如実にわかるんじゃないですかね」と塚本監督。「映画を作りたいと思っても、途方もないことだし、金銭的にもすごくかかりそうだからって諦めちゃう人が多い気がするんですよ。でも、これを見れば、俺にもできるって思うんじゃないかな(笑)。ただ、お金はともかく、根性がないと駄目ですけどね」

『鉄男THE BULLET MAN』の裏側が見られるだけでなく、映画の作り方まで知ることができる【マルチ・マテリアル・ヴァージョン】。本編とあわせて見ると、塚本ワールドにこれまで以上に深くはまれるはずだ。【MovieWalker】

■DVD『鉄男 THE BULLET MAN』【2枚組 パーフェクト・エディション】
価格:4,935円
■BD『鉄男 THE BULLET MAN』【パーフェクト・エディション Blu-ray】
価格:6,090円
【DVD&BD映像特典】
(1)鉄男 THE BULLET MAN【マルチ・マテリアル・ヴァージョン】(71分)
(2)石川忠作曲・幻の別エンディングテーマヴァージョン
(3)予告編
発売:アスミック、販売:ハピネット
※特典内容・仕様などは変更になる可能性あり
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