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LAで、日本独自の文化“活動弁士”の特集上映に拍手喝采!映画『カツベン!』も控え、注目高まる

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LAで、日本独自の文化“活動弁士”の特集上映に拍手喝采!映画『カツベン!』も控え、注目高まる

3人の弁士による活弁と、楽士の生演奏付きで上映された
3人の弁士による活弁と、楽士の生演奏付きで上映された『生さぬ仲』(1916年、早稲田大学演劇博物館所蔵)

映画の都ロサンゼルスにて、日本でも独自の存在である活動弁士の世界を伝えるイベント、「The Art Of The Benshi」が開催された。これは、早稲田大学とカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)による日本文化学研究プロジェクト「柳井正イニシアティブ グローバル・ジャパン・ヒューマニティーズ・プロジェクト」の一環として行われたもの。このプロジェクトは、2014 年に株式会社ファーストリテイリングの柳井氏個人の寄付により、UCLAアジア言語文化学部のマイケル・エメリック上級准教授が発起人となって開始され、これまでにも野村万作・萬斎親子の狂言公演とワークショップ、是枝裕和監督のレトロスペクティブ上映とマスタークラスなど、日本文化を伝えるイベントを企画実施してきた。

『カツベン!』のチラシを持つ活動弁士の3人。左から、大森くみこ、片岡一郎、坂本頼光
『カツベン!』のチラシを持つ活動弁士の3人。左から、大森くみこ、片岡一郎、坂本頼光

この「The Art of The Benshi」は、1930年代のサイレント映画時代にセリフを発したり、物語を解説したりした日本独自の映画文化である活動弁士をシンポジウムと特集上映で紐解くイベント。そのうち3日間に渡る特集上映は一般にも公開され、多くの観客が訪れた。UCLAのビリー・ワイルダー・シアターで行われた上映では、日本で活躍する活動弁士の片岡一郎、大森くみこ、坂本頼光による公演が行われた。3日間にわたり異なる演目が組まれており、最終日の公演では、オペレッタで小学生の女の子の日常を見せるアニメ作品『茶目子の一日』(活動弁士:大森くみこ)、月形龍之介主演、伊藤大輔監督の時代劇『斬人斬馬剣』(活動弁士:坂本頼光)、セシル・B・デミル製作の1926作品で、2016年にフランスで発見されたフィルムをシネマテーク・フランセーズとサンフランシスコ無声映画祭が修復した『サイレンス』(活動弁士:片岡一郎)、そして3人の弁士が“声色掛け合い”で臨むという珍しい作品『生さぬ仲』(1916)が上演された。観客のほとんどは日本語話者ではなかったため、活動弁士たちが日本語で語るのを耳で楽しみ、映像に載せた英語字幕を読むという上映方式が取られた。上映前に、UCLAフィルム・アーガイブのプログラマー、ポール・マルコムは「日本のサイレント映画黎明期に活躍した弁士はナレーターではなく、映画に出てくる登場人物すべてを演じるパフォーマーとして人気を博しました。弁士はセリフやト書きも自ら書き演じる、脚本家兼パフォーマーであったと言えます。そのため、弁士の名前は映画の宣伝にも使われ、弁士そのものにファンがついていました。活動弁士の上演は現代の日本では稀で、ここロサンゼルスで鑑賞できるのは滅多にない機会です」と日本における活動弁士の成り立ちや状況を説明した。

『生さぬ仲』を3人の活動弁士が声色掛け合いで上演、そのやり取りは見事なもの!
『生さぬ仲』を3人の活動弁士が声色掛け合いで上演、そのやり取りは見事なもの!『生さぬ仲』(1916年、早稲田大学演劇博物館所蔵)

ロセンゼルスでの上映について片岡は、「ロサンゼルスのお客さんの反応は非常にストレートですね。昨日は小津安二郎監督の1933年作品『非常線の女』を上演しましたが、活発に笑い声が起きていました。日本の当時の無声映画の俳優たちが洋画の影響を受けた小津監督の演出を受けて、洋画に通じる演技をしていたことに気づかれたのかもしれないですね。日本とアメリカの観客の反応は違いますが、後で感想を話してみると受け止めているテーマは同じなのだということに気がつきました」と語り、大森は「アメリカの観客は感情を表に出して観てくださるので、やっていても楽しかったです」と感想を述べていた。

折しも、今年12月には周防正行監督が、日本映画黎明期を舞台に活動弁士を夢見る青年(成田凌)の生き様を描く『カツベン!』が公開される。片岡一郎と坂本頼光の2人は活動弁士指導や時代考証担当として今作に参加しており、このタイミングでロサンゼルスにおいて特集上映やシンポジウムが開催されたことはとてもよいキックオフになったと語る。活動弁士の3人はそれぞれ映画への思いを語ってくれた。

満席の会場には多くの映画ファンが集まり、日本独自の文化である活動弁士の上演に耳を 傾けていた
満席の会場には多くの映画ファンが集まり、日本独自の文化である活動弁士の上演に耳を 傾けていた

「(映画が公開されて)活動弁士の仕事に親しみを持ってもらえるといいですね。活動弁士の上映と言うと構えて観にこられる方もいるかもしれませんが、当時は活動弁士も無声映画も大衆芸能でした。周防監督の『カツベン!』はとても親しみやすい作品になっていると思いますので、映画を観た方々も気楽に活動弁士の上映を楽しんでいただけるようになるといいと思います」(片岡)、「現在、日本で活躍する活動弁士は10名程度しかいないので、『私は活動写真弁士です』と言ったときに『本業はなんですか?』と何万回聞かれたことか(笑)。落語家であればそんなことは聞かれないと思いますが、これからは活動弁士が職業として認識されるようになるといいですよね」(坂本頼光)、「古い映画でみんなが知らない映画でも、こうして時代と文化の違いをつなぐ役割をすることによって日が当たるようになる映画がたくさんあると思います。『カツベン!』はこういう作品をたくさん観ていただける、いいきっかけになるのではないでしょうか」(大森)。

 映画の街ロサンゼルスで行われた活動弁士の特集上映は、日本独自に発展した映画文化を体験するイベントとして大盛り上がりを見せていた。そして、12月に公開される周防監督最新作の『カツベン!』では活動弁士の世界がどのように描かれているのか、世界中の映画ファンが期待を寄せていることだろう。

取材・文/平井伊都子



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