Netflixが賞レースに投入する『マリッジ・ストーリー』は、2019年の『クレイマー、クレイマー』となるか?|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
Netflixが賞レースに投入する『マリッジ・ストーリー』は、2019年の『クレイマー、クレイマー』となるか?

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Netflixが賞レースに投入する『マリッジ・ストーリー』は、2019年の『クレイマー、クレイマー』となるか?

先日閉会した第76回ヴェネチア国際映画祭でワールドプレミアが行われ大絶賛を得た『マリッジ・ストーリー』(12月6日Netflixにて世界同時配信予定)が、第44回トロント国際映画祭でも北米プレミア上映された。

NYで舞台監督を務めるチャーリー(アダム・ドライバー)と、女優のニコール(スカーレット・ヨハンソン)。大恋愛の末に結婚した2人だったが、現在は離婚調停の真最中。1人息子のヘンリーの養育権を巡り、良き父親になろうと奮闘するチャーリーだったが…。

プレミアに登壇したノア・バームバック監督は、「まだアイデアの段階で脚本を書き始める前にスカーレットとアダムに会い、彼らが早い段階で出演を決めてくれたおかげで脚本にも多大なインスピレーションを与えてくれ、この映画を作る勇気を与えてくれた。自分が書いた脚本なのにも関わらず、映画の中での彼らの言動はとてもパーソナルなものに見え、彼ら自身を描いた映画を観ているような気にさせる」と2人の主演俳優たちを讃えた。特に、チャーリー役のアダムとはこれが3本目のコラボレーションで、「アダムとはいまだに『フランシス・ハ』(12)のあのシーンはああも演じられたのではないか、というような話をしている」と、作品を超えた友情を明かした。

離婚調停を扱った映画というと、『クレイマー、クレイマー』(79)を引き合いに出されることが多い。ダスティン・ホフマンとメリル・ストリープ演じる夫婦が5歳の一人息子の親権を争う物語で、第52回アカデミー賞において9部門にノミネートされ、作品賞・脚色賞・監督賞(ロバート・ベントン)・主演男優賞(ダスティン・ホフマン)、助演女優賞(メリル・ストリープ)の5部門で受賞している。今作と『クレイマー、クレイマー』は、養育権をより良い条件で得るために良い父親像を演じる努力する姿を描いている点で似ているが、時代背景を反映した女性の社会進出や財産分与など、よりいまの時代のカップルが直面する離婚劇になっている。

バームバック監督はVariety誌のインタビューで、2人が言い争うシーンを演出したときのことを「あのシーンの演出は自分の人生で最も辛い経験だった…と共に、監督としてとても充実感を得られた瞬間でもあった。撮影は2日間にわたって行なったが、流れが必要なシーンでもあったので、最初から何度も演じてもらう必要があった。彼らの表情を捉えるためにどこでカットを割ってカメラを切り返して表情を見せていくのか全て演出として決めていたが、最高の演技をするために無意識下にある彼らの顔を見ていたら、飛び抜けた身体能力を持つアスリートがベストを尽くしている姿と重なった」と答えている。

ちなみに、配信事業者と映画館をめぐる論争はトロント国際映画祭でも起きており、映画祭期間中メイン会場となった大型シネコンを運営するCineplex社がNetflixやアマゾン・スタジオなどの配信事業者による作品の上映を許可せず、他の会場を使って上映された。Cineplex社はカナダの通例どおりの映画公開スケジュールである、90日間の劇場上映の後にホーム・エンターテイメント(DVD、ブルーレイや配信)に移行する取り決めを守る映画スタジオの作品以外は上映しないと声明を出している。トロント市内の劇場で行われた『マリッジ・ストーリー』の上映では、上映前の挨拶でバームバック監督が真っ先に「Netflixに感謝します」と述べ、映画の冒頭でNetflixのロゴが出ると観客から拍手が起きた。他の配信作品においても同様のことが起きていたかはわからないが、観客の興味は“良い映画を観たい”というシンプルなものだったようだ。今作が今後アカデミー賞へと歩を進めるにいたると、今年もまた配信作品にアカデミー賞を授けるかどうかを問う論争が繰り広げられることだろう。

取材・文/平井伊都子