【連載】『松本花奈の恋でも恋でも進まない。』第13回 嫌いになれない(その2)|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
【連載】『松本花奈の恋でも恋でも進まない。』第13回 嫌いになれない(その2)

コラム

【連載】『松本花奈の恋でも恋でも進まない。』第13回 嫌いになれない(その2)

【写真を見る】松本花奈監督の好評連載、第13回は「嫌いになれない(その2)」
【写真を見る】松本花奈監督の好評連載、第13回は「嫌いになれない(その2)」イラスト/あわい

「DVD&動画配信でーた」にて好評連載中の、注目の若手監督・松本花奈による日々雑感エッセイ「松本花奈の恋でも恋でも進まない。」。第13回は、とある逮捕された知人にまつわるエピソードその2。

 

嫌いになれない(その2)

先月に引き続き竹内くんのことを書こうと思う。

 

最近つくづく思うのは、どれだけ親しい人であっても他人の全てを完全に知るのは不可能だということだ。そういう意味でいうと私は竹内くんの360度のうちのたった45度くらいしか知らなかったのかもしれない。

 

それからまた2週間ほど経ったある日、突然竹内くんからFacebookのメッセージで連絡が来た。「LINEが使えなくなったので、今後はこちらで」とのこと。こっちはききたいことが山ほどあるのに何て簡素な連絡なんだ…と思っていたら、「色々知ってるよね? ただ、事実じゃない情報が多く出回っているみたいだから一度ちゃんと話したい。近々会える日、ない?」と続いた。

 

翌日はとある撮影だった。朝5時に集合しバスに揺られ地方のロケ地へと移動しながら、助手席に座っていた私は、運転席でひっきりなしに欠伸をする制作部の同い年の男の子に事の経緯を話し、会うべきか否かを相談した。ひとりで考えるにはどうも重圧が大きく、それでも近すぎる関係性の人には話しづらかったのだ。

 

彼はしばらく考えているのかはたまた眠気と戦っているのか分からない長い沈黙を貫いた後、ようやく口を開き「会わないほうが良いんじゃないっすか」とポツリとつぶやいた。理由を聞くと再び空白の時間があり、そして今度はレッドブルを口に流し込みながら「だって、犯罪者と関係があるってもし何かのキッカケで皆に知られたら、花奈さんに対する視線も変わると思いますよ。間接的に迷惑かける人も出てくるかもしれないし。もちろん逮捕されたからといってその人の全側面が悪いわけじゃないとは思いますよ。花奈さんに見せていたであろう優しい側面だって嘘じゃないって分かってますよ。でも世の中そんなに甘くないから全員がそれを理解するのは無理っすからね」と言った。

 

私は心の中で、「寂しいけど、その通りでしかないね」と思った。車窓から見える空は段々と深い青が抜け、透き通ったオレンジを彩り始めてきていた。

 

その日の夜、家に帰るとすぐに竹内くんに電話をかけた。報道されている内容と実際との相違を弁明する竹内くんの話をウンウンと聞きながら、すぐには会えないことを伝え、電話を切った。

 

それでも、また時間が経ったら美味しいご飯でも食べながら他愛のない話をしたいと思った。それが正解ではないのかもしれないけれど、私の中に存在する竹内くんの優しさはきっと一生消えなくて、それが消えない限り私は何があろうと竹内くんを嫌いになることはできないのだと思った。

 

撮影/加藤孔士朗
撮影/加藤孔士朗

 

●松本花奈プロフィール

10月16日(水)放送開始のドラマ『死役所』にも参加
10月16日(水)放送開始のドラマ『死役所』にも参加

1998年生まれ。映像監督。主な監督作に映画『脱脱脱脱17』('16)、『キスカム!〜come on,kiss me again!』('19)など。ドラマ『ランウェイ24』放送中&配信中。10月16日放送開始のドラマ『死役所』にも参加。

文/松本花奈

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