伊藤健太郎と玉城ティナが『惡の華』で挑んだ、悶々とした思春期の役作りとは?|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
伊藤健太郎と玉城ティナが『惡の華』で挑んだ、悶々とした思春期の役作りとは?

インタビュー

伊藤健太郎と玉城ティナが『惡の華』で挑んだ、悶々とした思春期の役作りとは?

『惡の華』で共演した伊藤健太郎と玉城ティナ
『惡の華』で共演した伊藤健太郎と玉城ティナ撮影/黒羽政士

押見修造の人気コミックを実写映画化した『惡の華』(9月27日公開)で、いま最も勢いのある若手俳優である伊藤健太郎と玉城ティナが共演。昨年、第42回日本アカデミー賞新人俳優賞と話題賞をW受賞した伊藤と、蜷川実花監督作『Diner ダイナー』(18)でヒロインを務め、主演映画『地獄少女』(11月15日公開)も待機中の玉城。この2人が決して守りに入らず、本作で“攻め”の演技にトライした点が実に頼もしい。

伊藤が演じるのは、冴えない中学校生活を送る読書好きの青年、春日高男役。彼は出来心でクラスのマドンナ、佐伯奈々子(秋田汐梨)の体操着を盗んだところを、同級生の仲村佐和(玉城ティナ)に見られたことで、弱みを握られる。春日は仲村から、そのことを秘密にする代わりにあることを提案され、そこから彼の興奮と恥辱にまみれた日々が始まっていく。

「禁酒をして、いい意味でストレスを溜め込みました」(伊藤)

【写真を見る】最旬俳優の一人、伊藤健太郎をスペシャルシューティング!
【写真を見る】最旬俳優の一人、伊藤健太郎をスペシャルシューティング!撮影/黒羽政士 ヘアメイク/島徹郎(juice) スタイリスト/釘宮一彰(juice)

春日が、佐伯のブルマのにおいをかぐといった変態行為に走ったり、仲村が「クソムシ!」と罵詈雑言を浴びせたりと、2人はそれぞれ振り切った演技で思春期特有の鬱屈感や闇を体現した。

マゾヒストの傾向を要求される春日役だが、『覚悟はいいかそこの女子。』(18)でも組んだ井口昇監督との2度目のタッグとあって「参加することにまったく躊躇はしなかったです」と言う伊藤。彼は「やったことがないような役柄で、かなりのチャレンジになることはわかっていました」と覚悟を決め、中学生の春日役を演じるために、監督からのリクエストで体毛を剃り、禁酒を徹底して役に臨んだ。

「まずは14、5歳の自分を思い返そうとしましたが、その作業が一番しんどかったです。体毛を剃ったことより、禁酒をしたことのほうが大きくて。現場では、仲の良いスタッフや共演者がいてくれますが、雰囲気が良ければ良いほど、部屋に戻った時に、いろいろと考えてしまいました。普段はお酒を呑むことでリセットして、ストレスを解消しますが、今回はその逃げ場がなく、いい意味でストレスを溜め込んでいけました。しんどかったですが、そこまでしないと、春日役は無理だったと思います」。

玉城が「真面目!」と感心すると、伊藤は「やめろ」と照れ笑いする。原作の大ファンだったという玉城は、漫画ならではのビジュアルや動きに寄せた役作りをしていった。「原作では、仲村のキャラクター像が確立していて、ファンも多いと思ったので、それをどこまで壊さずにやれるか、また、私がやることに意味を持たせられるかをすごく考えました」。

玉城は、漫画のコマを携帯で撮って保存し、撮影に入る直前まで見て、その特徴を体現しようとした。「原作では、仲村の目の表情が独創的で、姿勢も重心が一定ではなくどこかいびつな感じがします。そういう他の人から見て異質な点を意識して演じました。ビジュアルもより仲村に近づけたくて、少し赤っぽい色に髪を染め、“仲村カット(おかっぱ)”にしました」。

「春日役は本当に大変でした」という伊藤とは対象的に「私は楽しかったです」と余裕の笑みを浮かべる玉城。「お仕事じゃないと、『クソムシ!』といったような言葉を吐く機会はないですから(笑)。井口監督の仲村に対する期待値がものすごく高かったので、どういうふうにしたらおもしろいと思ってもらえるかと、私は楽しみながら演じました。また、春日に対してもやりたい放題で、ビンタも思い切りやらせてもらいました」。

伊藤は「鼓膜が破れるかと思いました(笑)。ありがたかったのですが」と言うと、玉城は「私、けっこう本気でやっちゃうんです。でも、逆に自分がされる側でも『どうぞどうぞ』と受け入れますから」とニッコリと笑う。

衝撃的!伊藤健太郎扮する春日がブルマのにおいを嗅ぐシーン
衝撃的!伊藤健太郎扮する春日がブルマのにおいを嗅ぐシーン[c]押見修造/講談社 [c]2019映画『惡の華』製作委員会

自身がMで変態だと舞台挨拶などで公言している井口監督は、ドストレートな映画『変態団』(15)をはじめとするさまざまな“変態オシ”の映画を手掛けてきた。そこはいまや作家性の一部として浸透していて、映画ファンからも定評があり、今回の『惡の華』でも、水を得た魚のようにM描写をとことん突き詰めた。たとえば、春日がブルマのにおいをかぐシーンについて、井口監督から「ブルマの繊維や分子をすべて吸い取るような感じで」とリクエストされた伊藤は、その期待に十分応えている。

「あのシーンから物語が始まるのですが、撮影でもあのシーンを1発目に撮れたことは良かったと思います。監督とは『覚悟はいいかそこの女子。』でもご一緒させていただいたので、監督がこだわるところはだいたいわかりました。監督自身がいい意味で変態なので、春日の重要なシーンを、すてきに切り取ってくれました」。

玉城も「本読みの段階から、井口監督とは価値観の共有がすでにできていましたので、表情について『もっともっと』と煽られることもなかったです」と言いながら、井口監督ならではのこだわりを感じた演出について明かしてくれた。

「“うんち”と言う台詞のイントネーションについては、細かい指示をいただきました。日常生活ではあまり使わない言葉ですが、そこを議題に出して『これはこういう言い方です』と説明してくれました。そんな井口監督も、うんちについて真面目に議論できるこの仕事も、すごくおもしろいなと思いました」。

「今後も自己ベストを更新していきたいです」(玉城)

伊藤健太郎と揃いの白い衣裳に、赤リップが映える玉城ティナ
伊藤健太郎と揃いの白い衣裳に、赤リップが映える玉城ティナ撮影/黒羽政士 ヘアメイク/今井貴子 スタイリスト/松居瑠里

井口監督の下、それぞれが原作の世界観に寄り添い、春日と仲村になりきった2人。映画版『惡の華』について、原作者の押見修造も「こんなにもうれしい映画化はない」と手放しで絶賛したが、まさに2人が役者としていい波に乗れていることを改めて実感する。

今年、日本アカデミー賞の新人賞を受賞した伊藤だが、決して浮き足立つことはない。「自分がやった作品を観て反応してくれる観客やファンの方がいてくださることは非常にありがたいし、たとえ賛否があったとしても、観てもらえること自体がうれしいです。さらにその作品が、誰かの人生に少しでも影響を与えられたと感じた時は、もっとうれしいから、そういうふうに思ってくれる人が増えるように、自分も頑張らねばと思います」。

俳優としての未来像について聞くと「敢えて目標は作らないです」と言う伊藤。「何年後かにどうなっていたいというよりも、いまはいただいた仕事を毎日精一杯頑張ることのほうが大事かなと。だから、こうやってすてきな作品と出会って、すてきな役者さんと仕事ができるように、今後も精進していきたいと思います」。

『惡の華』は9月27日(金)より公開中
『惡の華』は9月27日(金)より公開中[c]押見修造/講談社 [c]2019映画『惡の華』製作委員会

玉城にとっても2019年は、人気モデルから人気女優へと本格的にシフトチェンジをした飛躍の年になりそうだ。前述のとおり、主役やヒロインを務める映画が3作続く玉城は「たまたま公開時期が重なりましたが、その反響の大きさには自分自身も驚いています」と言いつつ「どの作品も得るものがすごくあったし、自分のなかでも大きな3作となりました」と、手応えを口にする。

作品選びについて「私自身の意向も聞いてくれる事務所なので、感謝しています」と言う彼女の目には、新進女優とは思えない安定感と揺るぎない意志が感じられた。

「私は好きな人と一緒に、きちんとお仕事がしたいのですが、今回もそういう作品に恵まれたと思っています。監督やプロデューサー、共演者の方々が、その現場で愛情を持って真摯に作品と向き合っていて、私もそのなかにいられたので頑張ることができましたし、女優としてのやりがいも感じました。私も明確に目標としている人はいないのですが、今後もどんどん自己ベストを更新していければいいなと思っています」。

取材・文/山崎 伸子

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