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瀬々敬久監督が『楽園』に込めた想いを熱弁!「いまの僕たちの実人生のヒントになる」

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瀬々敬久監督が『楽園』に込めた想いを熱弁!「いまの僕たちの実人生のヒントになる」

「悪人」や「怒り」など、多くの著作が映像化されている芥川賞作家、吉田修一の最高傑作との呼び声も高い「犯罪小説集」を、『64-ロクヨン-前篇』(16) で第40回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞した瀬々敬久監督が映画化した『楽園』(10月18日公開)のティーチイン付き特別試写会が1日、早稲田大学にて開催。瀬々監督と、本作で美術監督を務めた磯見俊裕が学生たちからの質問に答えた。

早稲田大学で行われたティーチイン付き試写会に瀬々敬久監督が登壇
早稲田大学で行われたティーチイン付き試写会に瀬々敬久監督が登壇

本作は青田に囲まれたY字路で起こった少女失踪事件と、12年後に同じ場所で起きた惨劇をきっかけに、事件の容疑者として追い詰められていく孤独な青年の中村豪士と、失踪した少女の親友で罪の意識を背負いながら成長した湯川紡、そして事件現場の近くの集落で村八分になって孤立を深めていく男、田中善次郎の3人の運命が交差していく物語。

かねてから原作者である吉田のファンだったという瀬々監督は、「いつか吉田さんの原作を映画にしたいと思っていたところで、たまたま本屋で原作を手に取り、短編だから誰も映画にしないんじゃないかと思ってプロデューサーの人に話を持ちかけました」と、本作の始まりを振り返る。「平成元年にピンク映画でデビューした時から、実際にあった犯罪や事件をモチーフに映画を作ってきたので、近しい題材だと感じ作品にしたいという思いがすごくありました」と、実際にあったいくつかの事件を題材にした原作に強いシンパシーを感じたことを明かした。

そして原作に収録されている5編の短編の中から「青田Y字路」と「万屋善次郎」の2編を基にして脚本を執筆した瀬々監督。「本当はもうひとつ『曼珠姫午睡』という東京を舞台にした短編も入れようと思っていたのですが、プロットを吉田さんに渡したところ『3つは多いから2つに絞ったほうがいい』と言われたんです(笑)」というエピソードを明かし、「映画の終盤で紡が東京に行くのはそういったことがあったからです」と告白。

吉田修一の原作との出会いについて振り返った瀬々敬久監督
吉田修一の原作との出会いについて振り返った瀬々敬久監督

また『楽園』というタイトルについて瀬々監督は「犯罪を犯す人たちも、それぞれが差別の中で生きてきて、ボタンのかけ違いのように犯罪の世界に追い込まれていく。みんなが実は楽園みたいなものを目指そうとしてたのではないかと思い、『楽園』というタイトルをつけました」とその由来を明かす。そして「戦争が終わって新しい世の中にしようと思って生きてきたにもかかわらず、現在はいつの間にかとんでもない時代になってしまった。そういう意味で『楽園』というタイトルは、いまの僕たちの実人生のヒントになるんじゃないかと思います」と、本作に込めた想いを熱弁した。

その後、会場に集まった大勢の学生たちから終盤に登場するセリフの意味や、スタッフの中でも意見が分かれていたというある登場人物の心理、映画の重要な役割を果たすY字路へのこだわりなど活発に質問が飛び交い、ひとつひとつ丁寧に答えていく瀬々監督と磯見。ある学生からは大島渚監督の『飼育』(61)を引き合いに出した質問が投げかけられると瀬々監督は、大島監督が子どもの頃に戦後を迎えて学校の先生たちが急に民主主義を唱え出したことに怒りを覚えたというエピソードを挙げ、「大島監督が戦後の民主主義にこだわっていたように、僕らの世代ではバブルが弾けた90年代を経て2000年代にふらっとした時代が始まったことに違和感があった。そしていまはヘイト的な時代になっている。そういうことに対する嫌な感じを映画に出しています」と、どの時代にも共通する普遍的なテーマが、本作に込められていることを示唆した。

『楽園』は10月18日(金)公開!
『楽園』は10月18日(金)公開![c]2019「楽園」製作委員会

また昨日には、RADWIMPSの野田洋次郎が作詞・作曲・プロデュースを務め、上白石萌音が歌う主題歌「一縷」のミュージックビデオが解禁された。このミュージックビデオは瀬々監督が監修を務め、本作で助監督を担当した海野淳のメガホンのもと映画のロケ地で撮影されているとのこと。「一縷」は10月14日(月)に配信シングルとしてリリースされる。

そしてさらに、瀬々監督の熱烈なラブコールによってタッグが実現したオランダのコンポーザー/ピアニストのユップ・ベヴィンが担当した、心に響く劇伴が収録されたオリジナル・サウンドトラックも10月16日(水)に発売。綾野剛をはじめとした豪華キャストの共演と、深いテーマ性を携えた物語、そして幅広い人々の心に届く音楽と注目すべきポイントにあふれた本作を、是非とも劇場で余すところなく堪能してみてはいかがだろうか。

取材・文/久保田 和馬




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