「ウルトラQ」から『ガメラ2』に、伊藤和典が受けた影響とは?「ギレルモ・デル・トロの気持ちはよくわかる」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
「ウルトラQ」から『ガメラ2』に、伊藤和典が受けた影響とは?「ギレルモ・デル・トロの気持ちはよくわかる」

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「ウルトラQ」から『ガメラ2』に、伊藤和典が受けた影響とは?「ギレルモ・デル・トロの気持ちはよくわかる」

現在開催中の第32回東京国際映画祭にて、日本のアニメや特撮作品が世界的に評価されるきっかけや到達点となった作品を上映する特集「ジャパニーズ・アニメーション」が実施されている。昨日31日は1966年に放送された特撮ドラマ「ウルトラQ」のエピソードより「ガラモンの逆襲」の4K上映と、当時のスタッフ、キャストが語る貴重な証言をまとめたスペシャル映像が上映された。そしてスペシャルゲストとして「機動警察パトレイバー」シリーズや「平成ガメラ」シリーズの脚本で知られる伊藤和典が登壇し、“怪獣”や「ウルトラ」シリーズをテーマにトークショーが行われた。

「ウルトラQ」の名エピソード「ガラモンの逆襲」を4K上映!
「ウルトラQ」の名エピソード「ガラモンの逆襲」を4K上映![c]円谷プロ

「ウルトラQ」とは、米国の「トワイライトゾーン」などをヒントに1話完結型のSFドラマとして制作され、独特の怪獣路線を融合させた“空想特撮シリーズ”の元祖となる作品。「ガラモンの逆襲」では、地球侵略を狙う宇宙人が送り込んだ怪獣“ガラモン”によって東京が破壊されるなか、登場人物たちが事態収拾のために奮闘する物語が展開される。

【写真を見る】スペシャルゲストとして脚本家の伊藤和典(右)が登壇。MCは映画評論家&ジャーナリストの清水節(左)が務めた
【写真を見る】スペシャルゲストとして脚本家の伊藤和典(右)が登壇。MCは映画評論家&ジャーナリストの清水節(左)が務めた

MCを務めた映画評論家&ジャーナリストとして活躍する清水節の呼び声で登場した伊藤。まずは、日本におけるVFXの原点として、特撮史、怪獣史的な観点から見た「ウルトラQ」の存在について見解を求められ、「66年にはすでに、『ゴジラ』や『ガメラ』シリーズが人気だったこともあり、“怪獣”がイケるという下地はあったと思います」と説明。

「ゴジラで言うと、1964年の『三大怪獣 地球最大の決戦』でモスラが通訳役を務めてからなんでもありになり、空想科学的な側面はなくなりましたね(笑)。当時の僕は喜んで観ていたのですが、一つ上のお兄さん世代はここでゴジラと決別したと言っています。昭和ガメラも子ども向けの作品だったので、大人も観られる作品として『ウルトラQ』は受け入れられていったと思います」とし、54年の初代『ゴジラ』公開時に生まれ、リアルタイムで特撮作品に触れてきた伊藤ならではのコメントが飛びだした。

続けて、「ウルトラQ」全エピソードの中でのベストを聞かれた伊藤が、誘拐怪人ケムール人が登場する「2020年の挑戦」をピックアップ。清水に「それは怪獣モノのくくりになりますか?」と聞かれ、伊藤は「この間も怪獣の定義はなんですか?という質問をされたんですよ。その時は、そんなものはない!と答えました(笑)」と回答。しかし、「少し補足させていただくと、例えばバランとジャミラをひとくくりにできる定義はないと思うんです。だから、あなたが怪獣と思うものが怪獣ですよ、としか言いようがないですね。ケムール人も怪獣と思えば怪獣でいいんです」と持論を展開する。

伊藤和典が特撮や怪獣への思いを語る
伊藤和典が特撮や怪獣への思いを語る

ゴジラが原爆のメタファーとして描かれ、大怪獣バランがその土地の民族伝承に由来するなど、日本の怪獣にはその存在に意味があることにも言及。「そういう意味で『ウルトラQ』は怪獣のすそ野を広げたと思います。宇宙から来た怪獣にはその出自が不要になりましたね。だから、レギオンも宇宙から登場させました」と自身が脚本を手掛けた『ガメラ2 レギオン襲来』(96)への影響も明かしている。

この日のために“ガラモン”Tシャツを着てきた伊藤和典
この日のために“ガラモン”Tシャツを着てきた伊藤和典

アニメ・実写を問わず多くの作品に参加してきた伊藤。海外販売を前提に、1993年に円谷プロダクションがアメリカで制作した「ウルトラマンパワード」の脚本も手掛けている。「全13話なのですが、一人で書き切る自信がなかったので2人で作業していました。それでも、アメリカは契約社会で納品日を過ぎるとどんどん違約金が発生するので、死ぬ気で書き上げたんです。完成した後、知恵熱が出てしまいました」と当時の苦労を吐露。

「パワード」は初代ウルトラマンのリブートを前提とした作品。当時、どういうコンセプトを想定していたのか聞かれた伊藤は「よく覚えていないのですが…とりあえずバルタン星人は外すことはできないだろうと。あとは、自分のお気に入りのエピソードを入れつつ、最後のゼットンはバルタン星人の手先にしました。初戦でバルタン星人が負けて『俺たちだけじゃダメだ!』と考えてゼットンを連れて戻ってくるんです」と記憶を振り返る。

上述の通り日本における怪獣は、西欧での単なるモンスターとは一線を画す存在。その認識の違いに対する苦悩もあったようで、「シナリオの打ち合わせで渡米したのですが、負けた感じで帰って来ました。伝わらないですね。彼らにとってはやっぱりモンスターで、“怪獣”に相当する言葉がないんです。近年は、ギレルモ・デル・トロが『パシフィック・リム』(13)で“カイジュウ”という言葉を使っていましたが、その気持ちはよくわかります。やっぱり、怪獣は好きな人が描かないとダメですね!」

ガラモンポーズの伊藤和典と、スペシウム光線のポーズの清水節
ガラモンポーズの伊藤和典と、スペシウム光線のポーズの清水節

「ウルトラQ」を軸に特撮や怪獣文化、伊藤が脚本を手掛けたウルトラ作品など、テーマが多岐にわたった今回のトークイベント。会場に駆けつけたファンも大満足の濃い内容となった。

取材・文/トライワークス


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