天寿を全うできるのはわずか…“引退馬”を待つ過酷な現実と救済への取り組みとは?|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
天寿を全うできるのはわずか…“引退馬”を待つ過酷な現実と救済への取り組みとは?

コラム

天寿を全うできるのはわずか…“引退馬”を待つ過酷な現実と救済への取り組みとは?

残すところもあとわずかとなった2019年。年末の風物詩の一つである「有馬記念」「ホープフルステークス」という2大G1レースを心待ちにしているという人も多いはず。そんな馬を愛するファンにこそ観てほしい作品が、12月28日(土)より新宿K's cinemaで3週間にわたり公開される『今日もどこかで馬は生まれる』だ。

引退馬を待つ厳しい現実とは…
引退馬を待つ厳しい現実とは…[c] 2019 Creem Pan All Rights Reserved.

いまや若者からお年寄り、女性も男性も誰しもが楽しめるエンタテインメントというイメージへと変わってきた日本の競馬。2017年度の馬券の売り上げは2兆7000億円超えという、世界一とも言われる盛り上がりを見せている。『今日もどこかで馬は生まれる』では、そんなロマンあふれる世界の裏側にある過酷な現実にカメラを向ける。調教師や馬主、牧場主など様々な競馬に関わる人へのインタビューや各所への取材、統計などを通じ、走ることができなくなった馬の“その後”にスポットを当てていく。

いまや誰もが楽しめるエンタテインメントというイメージの強くなった競馬
いまや誰もが楽しめるエンタテインメントというイメージの強くなった競馬[c] 2019 Creem Pan All Rights Reserved.

年間5000頭ものサラブレッドが新たに登録される一方で、約5000頭の馬が登録を抹消されているという中央競馬。“ブラッドスポーツ”と呼ばれるほど血統が重要な競馬は、大きな賞を制した一握りの活躍馬のみ繁殖馬としてのセカンドキャリアを歩むことになる。しかしサードキャリア以降の統計は取られていないため、そういった馬でさえ、その需要がなくなってしまうと知らぬ間に競売にかけられ、食肉用や家畜の飼料として屠殺されているのが現実だという。

屠殺され食肉用や家畜の飼料とされるのがほとんどだという
屠殺され食肉用や家畜の飼料とされるのがほとんどだという[c] 2019 Creem Pan All Rights Reserved.

また引退馬たちのほとんどが乗馬に転用されているが、同じ理由からこれらの馬たちもその後は行方知らずになってしまうケースが多いのだ。引退馬の屠殺に関する統計はないが、本作によると2015年には約8000頭の国産生産馬が屠殺されたことが推測でき、そして国産生産馬のうち約8割はサラブレッドだという。競馬のために命を授かった馬たちの多くがかわいそうな末路をたどっている。

映画ではそういった現実を突きつけるだけでなく、変えようとする関係者たちの活動にも密着。例えば、少しでも競走馬としての命を長くしてあげたいという方針のもと馬の生産・育成を行う人たちの牧場や、引き取り相談や預託先の紹介などを行う認定NPO法人引退馬協会。また人を乗せられなくなった馬のお世話をし見届ける養老牧場に、馬の糞尿を利用して作られた“堆肥”と“マッシュルーム”を生産し、人を乗せるという需要がなくなくても、経済活動を担うことができる仕組みに取り組む経営者など、救済への取り組みが行われていることを知ることができるのだ。

『今日もどこかで馬は生まれる』は12月28日(土)より公開される
『今日もどこかで馬は生まれる』は12月28日(土)より公開される[c] 2019 Creem Pan All Rights Reserved.

これらの活動により中央競馬会内部でも引退馬へのケアの動きが出てきているとのことだが、まだまだ厳しい状況には変わりない。ぜひ馬を愛する人たちには、現状と支援の道があることを『今日もどこかで馬は生まれる』で知るところから始めてほしいと願う。

文/トライワークス

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