『パラサイト』美術監督が明かす、“半地下住宅”の作り方とは?「大胆にデザインできた」<写真10点>|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『パラサイト』美術監督が明かす、“半地下住宅”の作り方とは?「大胆にデザインできた」<写真10点>

インタビュー

『パラサイト』美術監督が明かす、“半地下住宅”の作り方とは?「大胆にデザインできた」<写真10点>

脚本をもとに、ソウルの古い街並みについて膨大な資料を探したのだとか
脚本をもとに、ソウルの古い街並みについて膨大な資料を探したのだとか[c] 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画史上初のパルムドールを受賞し、まもなくノミネートが発表される第92回アカデミー賞では最有力作品の一角として大きな注目を集めているポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』が10日に日本公開を迎えた。このたび本作でプロダクション・デザイナーを務めたイ・ハジュンに、あの圧巻の洪水シーンの舞台裏など制作秘話を聞いた。

『パラサイト 半地下の家族』の舞台裏が明らかに!
『パラサイト 半地下の家族』の舞台裏が明らかに![c] 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

【※この記事は映画の核心に触れる内容を含みます。鑑賞前の方はご注意ください】

本作は“半地下住宅”で貧しく暮らす全員失業中のキム一家の長男ギウが、ひょんなことから高台の大豪邸に暮らすパク一家の家庭教師として働きはじめたことから幕を開ける。ギウに続いて、美術の家庭教師として妹のギジョンが働きはじめ、キム一家は徐々にパク一家に“パラサイト”していくのだが、その先には想像し得ない衝撃の光景が待ち受けていた…。

本作のプロダクション・デザインを務めたのはポン・ジュノ監督と2度目のタッグとなるイ・ハジュン
本作のプロダクション・デザインを務めたのはポン・ジュノ監督と2度目のタッグとなるイ・ハジュン[c] 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

ハジュンがジュノ監督とタッグを組むのは、2017年にカンヌ国際映画祭で大論争を巻き起こしたNetflixオリジナル映画『オクジャ/okja』(17)に続いて2度目。他にも韓国映画屈指の名作をリメイクしたイム・サンス監督の『ハウスメイド』(10)や、当時の韓国国内観客動員数新記録を打ち立てた『10人の泥棒たち』(12)、ジュノ監督が脚本を担当した『海にかかる霧』(14)など、数多くの話題作を手掛けてきた実績の持ち主だ。

「脚本を読んだ後に監督と話し合いをし、その後プロダクション・デザインチームと私で膨大な資料を探しました」と、今回のプロジェクトの経緯を語り始めるハジュン。文献や写真を調べて分類し、ジュノ監督とディスカッションを重ね、さらに選別された資料からアイテムを探すという工程を、実に10回は繰り返したのだという。「資料がまとまった後に間取り図をスケッチしていき、登場人物たちがどのように動くかという監督の計画を反映しました」。

そうした修正を重ねた後、ハジュンが次に取りかかったのは映画に協力してくれるアーティストの準備。「様々なアーティストとのコラボレーションはとても有益ですが、お互いに映画のコンセプトを理解していないと形や色の感覚など、最も重要な部分をコントロールできなくなってしまう」と、多くの人間が携わる映画作りの難しさについて明かし、「アーティストの意図を傷つけないようにしつつ、映画とプロダクション・デザインの意図がすべて融合するように気を付けていました」と準備の過程を振り返った。

もうひとつの舞台となるパク一家の邸宅は対照的な空間に
もうひとつの舞台となるパク一家の邸宅は対照的な空間に[c] 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

本作では主人公のキム一家が暮らす“半地下住宅”と、彼らが寄生するパク一家の“豪邸”。対比的に描きだされる2つの場所が物語の主な舞台となっている。そのなかでハジュンが最も苦労したのは、キム一家の家とその周囲の街並みのセットを作ることだったという。「最大の問題は、あとで洪水を起こさなくてはならないことでした」と、物語の終盤で起きる大洪水のシーンについて言及。

「半地下の通路では水が徐々に膝の位置まで上がってくるようにしなくてはならず、家の中は首の位置まで水が来なくてはならない。異なる水位を実現するために、通路を高く、家の中は低く作らなくてはなりませんでした」と、セットを作る上で工夫を凝らしたことを明かすハジュン。それだけではなく、家の中に置かれている物も水に浮く物と浮かない物に分けたり、電気系統がショートしないように気を配り、さらに水の色や質感にもこだわるなど、細部にまで創意工夫を加えていったのだという。

さらに「事前にカメラの位置を検証し、3Dシミュレーションでセットの壁を取り除いても大丈夫か確認しました。同じセットで洪水後のシーンも撮影しなくてはならなかったので、耐久性も考慮してセットを建てました」と語るハジュン。そうした試行錯誤の結果、当初3ヶ月用意されていたセットを建てる時間が2ヶ月弱しか残らなかったのだとか。「時間が足りずに大変だったといまでは思っています。建てている間にも雨の湿気でタイルが剥がれたり改修を余儀なくされました。でもその分、街の時間の蓄積が生まれたとも思っています」と、多くの苦労が映画のリアリティを高めていったことを強調した。

【写真を見る】あの圧巻のシーンはどのようにして生まれたのか!?<写真10点>
【写真を見る】あの圧巻のシーンはどのようにして生まれたのか!?<写真10点>[c] 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

最後に「本作でポン・ジュノ監督やたくさんのアーティストたちと共に仕事をして、非常にたくさんの刺激を受けました。そのおかげで私は大胆にデザインすることができ、この仕事を大いに楽しむことができました」と笑顔で本作へのたしかな手応えをのぞかせたハジュン。本作で彼は第24回アメリカ美術監督組合賞にノミネートされており、アカデミー賞ノミネートの可能性も充分に秘めている。アジアを代表するプロダクション・デザイナーに映画界最高の栄誉が贈られることに期待しつつ、その渾身のプロダクション・デザインを是非とも劇場で目撃してほしい。

構成・文/久保田 和馬

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