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制作期間は7年超!作画枚数4万枚!“常識破り”のアニメ映画『音楽』の壮絶な舞台裏

コラム

制作期間は7年超!作画枚数4万枚!“常識破り”のアニメ映画『音楽』の壮絶な舞台裏

クライマックスシーンのために1からフェスをDIY!

そんな手間と費用がかかるゆえに、ロトスコープの手法をとることは珍しいのだが、その分、人物の細やかな動きを精密に見せることに長けている。本作では全編にわたってロトスコープが用いられているが、なかでもその利点が映像に活かされているのが映画のクライマックスのフェスのシーンだ。

【写真を見る】フェスシーンのために実際にフェスを開催!現場はトラブル続きだった?
【写真を見る】フェスシーンのために実際にフェスを開催!現場はトラブル続きだった?[c]大橋裕之・太田出版/ロックンロール・マウンテン

ロトスコープで作られているということはつまり、このフェスシーンも実写で一度撮影されているということ。なんと本作では実際に入場フリーのフェスを手作りし、ミュージシャンをブッキングして撮影が行なわれている!もともとはフェスを開いた前年に愛知で行われるフェスに参加して撮影する予定だったのだが、台風の影響でフェス自体がおじゃんに。ならばと監督の意向でフェスを開催してしまったのだ。

深谷フィルムコミッションと地元の建設会社の協力のもと、足場となる建材や必要な機材をピックアップするところから、整備されておらず大きな石や枝などが散乱した会場をならし、ステージを組み立て、最寄駅から会場まで観客の送迎車を出し…と全てがDIYで行われている。

当日と前後3日間で準備から片付けまでが行われたこのフェスの撮影にも筆者は参加しているのだが、時間がないにもかかわらずとにかくハプニング続き。前日の雨によってぬかるんでいた地面のせいで、機材を積んだハイエースと建材を乗せたトラックが足を取られ、土地を借りていた建設会社の方にユンボ(パワーショベル)で牽引してもらったり、そんなこんなで日の出ているうちに地面の水平が取れず、前日にはステージを組む作業まで進むことがことができなかったり…。

映画は、不良3人組が思いつきでバンドを組み、フェスを目指すというもの
映画は、不良3人組が思いつきでバンドを組み、フェスを目指すというもの[c]大橋裕之・太田出版/ロックンロール・マウンテン

また筆者は前日の夜に深谷から一度、東京に戻り、翌日の早朝に必要な機材とスタッフをピックアップし会場に向かったのだが、会場についてみると全然ステージが組み上がっていなかったことに驚愕したことを覚えている。フェスは14時開始だったのに、お客さんが集まり出してからもまだ作業しており、会場はソワソワ状態。様々な人の手を借り、開始時刻直前になんとか作業が終わり無事フェスがスタート。話を聞くと深谷に残った人たちは当日朝4時から作業を行なっていたそう。とにかくギリギリの状態だったのだ。

そんな数々の苦労の末に行われたフェスのシーンでは、ドローンを含む10台近くのカメラで撮影を敢行。その結果、髪の毛1本1本まで精緻に描かれたキャラクターたちのステージ上でのリアルな動きはもちろん、会場の熱量や観客それぞれの型にとらわれない音を楽しむ動きなど、ロトスコープの良さが最大限に引き出されたダイナミックな映像となっている。

主人公のライバルの不良の声優を竹中直人が務めるなど、自主制作の映画とは思えない豪華さ
主人公のライバルの不良の声優を竹中直人が務めるなど、自主制作の映画とは思えない豪華さ[c]大橋裕之・太田出版/ロックンロール・マウンテン

7年以上という年月の中、幾度となく困難にぶち当たりながらも、岩井澤監督の熱意とこだわりによって完成に至った『音楽』。そんな情熱に引き寄せられたかのように坂本慎太郎、竹中直人、岡村靖幸、前野朋哉ら声優陣に、主題歌を書き下ろしたドレスコーズをはじめとする参加ミュージシャンたちなど自主制作映画とは思えない豪華キャスト、スタッフたちが参加。さらに第43回オタワ国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門でグランプリを受賞し、公開初日を含む3連休の武蔵野館での上映が全回満席と反響もすごいことになっている。果たして“型破りな映画”は、型破りなブームも巻き起こすことができるのだろうか?その動向にも注目してみてほしい。

文/武藤龍太郎

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