中井貴一と佐々木蔵之介、『嘘八百 京町ロワイヤル』で愛あるぼやき合い|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
中井貴一と佐々木蔵之介、『嘘八百 京町ロワイヤル』で愛あるぼやき合い

インタビュー

中井貴一と佐々木蔵之介、『嘘八百 京町ロワイヤル』で愛あるぼやき合い

『嘘八百 京町ロワイヤル』でW主演を務めた中井貴一と佐々木蔵之介
『嘘八百 京町ロワイヤル』でW主演を務めた中井貴一と佐々木蔵之介撮影/山崎伸子

中井貴一と佐々木蔵之介の最強タッグが再びスクリーンに帰ってきた。骨董を題材にした痛快コメディの続編『嘘八百 京町ロワイヤル』(1月31日公開)では、マドンナ役に広末涼子を迎え、前作よりもさらに巧妙なコンゲームが展開する。主演の中井と佐々木を直撃すると、前作と同じく過酷だったという製作秘話を役柄同様の絶妙な掛け合いで聞かせてくれた。

冴えない古美術商の小池則夫(中井)と、腕利きの陶芸家、野田佐輔(佐々木)。彼らのもとへ、父の形見である古田織部の幻の茶器“はたかけ”を騙し取られたという和装の京美人、志野(広末)が尋ねてくる。志野の涙にほだされた2人は、名器を取り戻すべく贋作仲間たちと作戦を練るが、その裏では、有名古美術店による贋物の巨大ビジネスが動いていた。

「撮影期間が4日間増えましたが、撮影の過酷さは変わらなかったです」(中井)

冴えない古美術商の小池則夫役の中井貴一
冴えない古美術商の小池則夫役の中井貴一撮影/山崎伸子

前作『嘘八百』(17)がスマッシュヒットしたことで続編の製作が決定し、またW主演をオファーされた2人。今回はプロット段階から参加することになったが、中井は「1作目の撮影があんなに大変だったのに、本当に続編を作るのか!?と驚きました」と戸惑いを隠せなかったようだ。

「2本目を作るとしたら、やはり前作を超えるものにしなければいけないと思ったので、『ちょっと難しいんじゃないですか?』と言いました。もちろん超える自信があるならば、アリだと思いましたが、そうでなくて、むやみに続編を作るのはもったいないなと」。

佐々木も同じ心境だったそうで「あんなにしんどい思いはもうしたくないと思う一方で、もしもやるのなら、今回もああいう辛い思いをしなければ、続編は作れないだろうなとも感じていました。ただスケールを大きくしたり、お金をかけたりすれば前作よりも良くなるというタイプの作品ではないと思ったので、そのへんを役者として見極めたかったです」と心の内を明かす。

ひょんなことから京都で再会を果たした古美術商の小池則夫(中井貴一)と陶芸家の野田佐輔(佐々木蔵之介)
ひょんなことから京都で再会を果たした古美術商の小池則夫(中井貴一)と陶芸家の野田佐輔(佐々木蔵之介)[c]2020「嘘八百 京町ロワイヤル」製作委員会

監督の武正晴と脚本の足立紳、今井雅子も前作から続投した本作。一番ネックになったのは、タイトなスケジュールと撮影環境で、中井は「自主映画の撮影みたいでした」と笑みをこぼす。

「前作は、たった16日で撮り切るというスケジュール。しかも武監督は『こんな感じでOK』といった妥協を一切しない人。また、寒さも厳しくて、低予算映画だからロケセットをお借りし、控え室もなかったし、コンビニのトイレを借りながらの撮影でした。お弁当のごはんが半分凍っているなんてこと、普通ないでしょ(笑)」。

本作では、前作に比べ撮影期間が4日間増えたが、「やはり撮影状況はあまり変わらなかったです」と中井。それでも「ロケ現場が商店街で、皆さんの協力をいただきながら進めることができました。また、今回は京都ロケで、蔵之介くんは実家があるし、僕も京都は慣れているところだったので、気分的にはゆったりとできた感じはありました」と言うと、佐々木が「気分だけね(笑)。撮影はまったく変わらなかったですが」とツッコむ。

「バディものに広末さんが入ってくれたことが本当に良かった」(佐々木)

腕利きの陶芸家、野田佐輔役の佐々木蔵之介
腕利きの陶芸家、野田佐輔役の佐々木蔵之介撮影/山崎伸子

一瞬の戸惑いがあっても、続編を断る理由はなかったという2人。中井は「相手役が蔵之介くんで、監督が武さんという点が大きかったし、なによりも前作を多くのお客さんに観ていただけたからこそ続編ができたわけなので、そこは本当にありがたいことだと思いました」と感謝するが、そこは佐々木も同意見だった。

2人は今回も、名コンビならではのあうんの呼吸を見せているが、佐々木は「2作目ということで、1回やったからこその遠慮のなさみたいなものはあったと思います。また、1作目が終わったあとも、中井さんのお芝居が気になり、出演作を拝見していたので、現場では則夫と佐輔の関係にスッと入れました」と、中井との信頼関係を口にした。

本作では、則夫と佐輔のバディに広末演じる志野が入ることで、絶妙な化学反応が起きている。中井は「女性が1人入るだけで、こんなに現場が華やかになるのかと。もちろん、前作でも森川(葵)さんや友近さんがいてくれたけど、それとはまったく違う感覚で…。パッと和装の広末さんが現れるんですよ、そりゃあ心が動くでしょう」と顔をニヤつかせる。

佐々木もうなずきながら「バディものに広末さんが入ってくれたことは本当に良かったと思います。僕たち2人だけの距離感に、彼女が入ったことで、間合いの作り方がおもしろくなったのではないかと。2人の間に違う対象物が入ることで、そちらに芝居のベクトルを向けつつ、いつもの則夫と佐輔の関係性を見せられたので」と語る。

しかも志野は、清楚な和装で登場したあと、後日、艶やかなホステスのドレス姿を見せ、ここはまさに“ギャップ萌え”なシーンで、観る者をくぎづけにする。中井によると「俺たちは洋装の広末さんを見ずに現場へ行ったので、志野さんを見た際の驚きは本当にリアルな反応でした(笑)」と言うと、佐々木も「あれが広末さん!?そうですよね?」と、現場で確認し合ったとか。

『嘘八百 京町ロワイヤル』は1月31日(金)より全国公開
『嘘八百 京町ロワイヤル』は1月31日(金)より全国公開[c]2020「嘘八百 京町ロワイヤル」製作委員会

おそらくそこは武監督がねらった演出だったに違いない。中井も佐々木も、撮影の苦労話をネタにしつつ、武組についての賛辞を惜しまない。「武監督はすばらしいです。誰にでも脂が乗っている時期というのがあると思いますが、まさにいまがそうなのではないかな」と言う中井。

「武さんは、本当に大変な監督のもとで助監督をやってきました。助監督はいわば、監督のわがままを具現化するために、現場をさばくことに最善を尽くす仕事ですが、武監督はその仕事を、全部自分の肥やしにしてきた感じがします。きちんと仕事をしながら、自分は助監督だけで終わるまいと思い、監督になることに照準を合わせてやってきた人なのではないかと思います。また、いまはオリジナル脚本の映画がすごく少なくなっていますが、足立さんはオリジナルをきちんと書ける人だと思うので、これからもどんどん書いていってもらいたいです」と、武監督とのコンビ作である『百円の恋』(14)でも知られる足立についてもエールを贈る。

佐々木も「今回も今井さんと足立さんの共同脚本だからこそ、こんなオモロい上等なオリジナルの作品が出来るのだと思いました。そして、確かに武さんが『足立さんのダメ男ぶりがよく出ているんです。こういうのを書かせたら、彼は上手いんですよ』とおっしゃっていました。中井さんもおっしゃるとおり、お互いの資質を認めあったうえで、良いものを作っていこうと取り組んでいる気がします」と、両者を称えた。

「歪みだけを排除していく世の中なんて違うと思います」(中井)

役柄さながらに絶妙な掛け合いを見せてくれた中井貴一と佐々木蔵之介
役柄さながらに絶妙な掛け合いを見せてくれた中井貴一と佐々木蔵之介撮影/山崎伸子

また、中井は本作に登場する架空の名器、“はたかけ”の特徴が歪みとキズであることについて「まさに『嘘八百』という題材のためにあったようなものだ」と捉えたそうだ。「僕は社会って、皆が均等であることが良いとは思っていないんです。今回の撮影の現場でもなにかの歪みをカバーしようとすることで、結果おもしろくなったりもします」。

佐々木が「もちろん、おもしろくしようというわけではなく、いつも必死にやっていたらそうなった」と補足すると、中井も「そうそう。必死じゃない時間なんてなかった」と苦笑する。それは撮影環境はもちろん、中井たち演技派俳優陣からお笑い芸人の坂田利夫まで、個性派俳優陣のアンサンブル演技が見どころとなっている点に加え、本作が、日向の道を闊歩する人々ではなく、はみだし者たちのチームプレイを描く物語でもあることも含めてだろう。

「歪みをどうにかしようと思った時、社会がすごくおもしろく成立することがあります。もちろん、歪みにも節度は必要ですがね(笑)。歪みを良しとし、カバーし合うことで団結心が生まれていく。そういう歪みだけを排除していく世の中なんて違う、ということを、僕は『嘘八百』の撮影現場で学ばせてもらいました。だから、スケジュールも余裕を持って組んでほしいと思ったけど、それをやってしまっては、『嘘八百』の良さがなくなると思いました」とキッパリ言い切る中井。

すると、佐々木が「それを言ったら、また、パート3をやることになっても『前と同じでいいんだ』と思われまっせ」とおちゃめにツッコミを入れる。中井は「それは絶対に許さない」と慌てて訂正するも、佐々木は「どっちやねん」と合いの手を入れ、2人で大爆笑する。

そんな名優2人のぼやきに裏打ちされて見えたのは、もの作りに対する真摯な姿勢と情熱だ。『嘘八百 京町ロワイヤル』を見れば、中井たちの奮闘が最高の形で報われていることがわかると思う。

取材・文/山崎 伸子

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