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東日本大震災から1ヶ月あまりの被災地で映画監督が見たものとは

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東日本大震災から1ヶ月あまりの被災地で映画監督が見たものとは

3月11日、東北地方を中心に地震と津波によってそこに暮らす人々の生活に甚大な被害を与えた東日本大震災。これまでテレビなどで繰り返し報道されてきただけに、その爪痕の深さは誰もが知るところだろう。既に何人ものジャーナリストや映画監督が現地入りし、現地の模様を映像に残していると言われているが、その先陣を切るかのように被災地の今を映し出したドキュメンタリーが劇場公開されている。

それが6月18日より公開となった映画『無常素描』だ。メガホンを取ったのは、介護現場の今を映し出し、平成22年度文化庁映画賞文化記録映画大賞を受賞した『ただいま それぞれの居場所』(10)の大宮浩一監督だ。

4月28日から5月4日までの一週間、監督は尼崎の町医者と共に車で今回の震災で津波により甚大な被害を受けた気仙沼市を訪れていた。車窓から見えるのは、瓦礫の山となり、変わり果てた街の姿。何隻もの巨大な船が道路を寸断していたり、ビルの屋上に車が乗り上げている風景はテレビで見せられたとはいえ、津波の脅威を感じさせられる。

そんななか、家庭に救援物資を運ぶ自衛隊員の姿、避難所で暮らす人々の姿と共に、家をめちゃくちゃにされた人、震災直後に現地入りし、復興を手伝う人、かつてそこで農業を営んでいた人々などにマイクが向けられ、彼らの口からは前向きに生きようにも、なかば諦めにも似た素直な気持ちが語られる。

劇中で音楽などは一切使用されておらず、どんなに破壊されても、震災以前と同じように美しく咲く桜や花々の映像、鳥の鳴き声、波の音が、『アブラクサスの祭』(10)などの原作者で僧侶の玄侑宗久によるお経と一緒に静かに流れるのみ。その静寂はテレビや新聞などの報道から得られる現地の印象とは違う、映画でしか切り取ることのできないものであり、現地の状況を知った気になっている自分たちに何かを訴えかけてくるかのようでもある。

直視するには辛すぎる光景ながら、決して置き去りにしてはならない被災地の現実がここにはある。タイトルにもある無常を感じさせる本作を見て、今回の大震災が残したもの、そして復興の意味を改めて考えてみるのが良いだろう。【トライワークス】

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