【氷川竜介による作品解説】人の脳を活性化させる『AKIRA』のエネルギー(前編)|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
【氷川竜介による作品解説】人の脳を活性化させる『AKIRA』のエネルギー(前編)

コラム

【氷川竜介による作品解説】人の脳を活性化させる『AKIRA』のエネルギー(前編)

『AKIRA』がなぜ時代と国境を越えて人々を惹きつけるのか。決して古びない普遍性と、観る者の現実を“活性化”させる本作のエネルギーを、アニメ・特撮研究家の氷川竜介氏が解説する。

(前編)

独特の挑戦的な製作となったプロジェクト

大友克洋は自身の原作漫画を監督としてアニメーション映画化した。しかし、アニメ現場育ちの監督ではない。ルーティンワークから距離があったからこそ、むしろその後のアニメに与えた影響も大きくなったのではないだろうか。

原作は1982年12月末に『ヤングマガジン』(講談社)で、連載漫画としてスタートした。そして「大友克洋自らが監督としてアニメーション映画化」と大々的に宣伝されつつ、本作のプロジェクトは本格化していった。アニメ制作初期は2週分の漫画原稿を1週間で描き、1週間をアニメ現場に割いていたという。規制の枠組みに収まらない大スケールの映像化を実現するため、「講談社、毎日放送、バンダイ、博報堂、東宝、レーザーディスク、住友商事、東京ムービー新社」(社名は当時)と複数会社が出資した「アキラ製作委員会」が設立され、制作予算10億円が集まった。アニメーション制作は東京ムービー新社で、現場もこの作品のためだけの「AKIRAスタジオ」が特設された。合作を中心とするテレコム・アニメーションフィルムなどさまざまな会社が協力。制作終盤には『となりのトトロ』(88)の作画を終えたスタジオジブリのアニメーターも応援に参加している。

完成した映画は1988年7月16日に封切られ、通常の35㎜フィルムに加えて一部の大型劇場では70㎜へアスペクト比を変更した拡大プリントでも公開された。さらに同年末には追加予算1億円をかけて随所に手を加えたインターナショナル版を制作し、これがビデオソフト化以後の原版となって、今にいたっている。

映画公開を優先させた結果、長らく連載中断となっていた原作漫画は、1990年6月に全120話で完結した。現在では連載原稿を大きく改訂した全6巻の大判の単行本で読める。また、海外ではカラーライズされたバージョンも出版され、日本の漫画を代表する作品として各国でアニメ映画ともども人気を博した。

「超能力バトルアクション」として、さまざまな表現を刷新した作品であるが、現実の「西暦2019年」を越えても普遍性をもって読まれている。それは、戦後日本史のリフレインを未来に投影し、「人の持ちうるパワーとエネルギー、そのコントロール」を総括する意志が込められているからだ。

作中、意志の力で物体を移動させ、別次元へと転換し、時に壮大なエネルギーを発する「超能力」は「原子力」のメタファーと見ることができる。相対性理論は「質量はエネルギーと変換可能である」という大きなパラダイムシフトをもたらし、量子力学ともどもソリッドな「物理的世界観」を激変させた。『AKIRA』の世界では、さらに「人間の思念はエネルギー化可能で、物質世界を変容できる」としたわけだ。

力に覚醒した鉄雄は、クライマックスで破壊衝動などの欲望を制御できなくなり、暴走し始める。人間本来の姿を喪失し、無制限に自己増殖して巨大化していくのである。当時まだ連載では描かれていなかった展開だけに、衝撃的であった。ここに「人は欲望のエネルギーを制御しきれるほど成熟していない」という普遍性が読み取れるのである。

暴走した鉄雄の人体は、神経や血管の代わりに電線やパイプを取り込んでキメラ化していく。当時隆盛期にあったサイバーパンク的な表現でもあるが、現代人への警告のようにも思える。30数年経った現在、我々現代人はスマートフォンが手放せなくなり、人体の一部のように扱ってしまっているからだ。しかも肥大した自意識が、他者を抑圧したり攻撃するような暴言を平気で書いたりするようになり、しかもそれが負の連鎖を招いて「炎上」を起こしたりしている。こうしてコントロールできなくなった破壊衝動、ネガティブな精神エネルギーは、異形の姿になってしまった鉄雄と何か違うのだろうか。

2020年を迎えて、『AKIRA』で描かれていた警告的なメッセージはより切実なものとなったと言える。その点でもメディア更新ごとの本作のリニューアルには、意味がある。

【写真を見る】鉄雄は薬物を投与されて超能力に覚醒。暴走の果てに異形化する
【写真を見る】鉄雄は薬物を投与されて超能力に覚醒。暴走の果てに異形化する[c]1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

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[特典]
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 ・AKIRA SOUND CLIP BY 芸能山城組
 ・エンドクレジット(1988年公開版)
 ・絵コンテ集(静止画)、劇場特報、予告集
●特製ブックレット(岩田光央×佐々木望×小山茉美×草尾毅×明田川進によるスペシャル座談会などを収録)
※氷川氏による解説の全文は『AKIRA 4Kリマスターセット』に封入される特製ブックレットで読むことができます。 https://v-storage.bnarts.jp/sp-site/akira/
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