【氷川竜介による作品解説】人の脳を活性化させる『AKIRA』のエネルギー(後編)|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
【氷川竜介による作品解説】人の脳を活性化させる『AKIRA』のエネルギー(後編)

コラム

【氷川竜介による作品解説】人の脳を活性化させる『AKIRA』のエネルギー(後編)

『AKIRA』がなぜ時代と国境を越えて人々を惹きつけるのか。決して古びない普遍性と、観る者の現実を“活性化”させる本作のエネルギーを、アニメ・特撮研究家の氷川竜介氏が解説する。

(後編)

挑戦的なアニメーション制作をめざした大友克洋

本作は作家、大友克洋のアニメーションに対する思い入れを、改めて世に示す作品ともなった。

1970年代末、大友克洋は既に漫画家として「ニューウェーブの旗手」としてのステータスを確立していた。「万物をあるがままに描く」というリアルで乾いた視線とオフビートなユーモア、シャープな筆致で描かれた生活空間のディテールやスピーディなバトルアクションなどなど、後進の漫画家に多大な影響を与えている。

フランスのバンド・デシネを中心に諸外国からも高い評価を受けるほど、漫画の成功者として認識されていた。それがあえて未知の領域である「アニメーション映画監督」に挑戦することに、当時は釈然としなかったファンも多かったようだ。

大友克洋とアニメーションの本格的な関わりは、りんたろう監督の映画『幻魔大戦』(83)で、キャラクターデザインとしてスカウトされたことに端を発する。さらにオムニバス映画『迷宮物語』(87)の短編『工事中止命令』やOVA『ロボットカーニバル』(同)のオープニング・エンディングで監督を手掛けるなど、関与を深めていく。

もともと実写の映画監督を志向し、その感覚で漫画を描いていた大友克洋は、集団作業でフィルムをつくるアニメーションの現場に大きな刺激を受けた。絵を動かすことには根源的な面白さがあるし、大胆な色使いなど紙の漫画では難しい新たな挑戦を始めるのが良かったと、2002年に筆者が構成、取材、執筆を担当した書籍『アキラ・アーカイヴ』(講談社)のインタビューで語られている(趣意)。

ここであえて注目しておきたいのは、1954年生まれの大友克洋が世代的に「テレビアニメ以前のクリエイター」であることだ。そして先述の取材では「『白蛇伝』や『西遊記』、『少年猿飛佐助』、初期の頃の東映長編漫画が好きでした。大工原章さんのキャラクターを、画風がまだそんなにシンプルになっていない時代の森やすじ(康二)さんが描いていたんです」と語られている。

森やすじのキャラクターは丸みを帯びてコケシのような和風のデフォルメ感があり、アニメーター大塚康生を経由して、高畑勲監督、宮崎駿監督らのスタジオジブリにつながる「日本らしいアニメの画風」を生み出していく。大工原章は例えば肘の関節や脚のくるぶし、顔の凹凸をしっかり描くなど、もう少しリアル寄りの画風である。残念ながら主流になり損ねたその画風が大友克洋アニメとつながっているのには説得力がある。また、テレビアニメの洗礼をそれほど受けていない世代であるからこそ、初期のリアル寄りの画風による継承を無自覚に行ったという可能性も存在している。

【写真を見る】バイク・チームのリーダーで、自称“健康優良不良少年”の金田
【写真を見る】バイク・チームのリーダーで、自称“健康優良不良少年”の金田[c]1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

伝説の作品が4Kリマスターで帰還!『AKIRA』特集


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 ・AKIRA SOUND CLIP BY 芸能山城組
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 ・絵コンテ集(静止画)、劇場特報、予告集
●特製ブックレット(岩田光央×佐々木望×小山茉美×草尾毅×明田川進によるスペシャル座談会などを収録)
※氷川氏による解説の全文は『AKIRA 4Kリマスターセット』に封入される特製ブックレットで読むことができます。 https://v-storage.bnarts.jp/sp-site/akira/
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