『シャンハイ』の渡辺謙が語る、イーストウッドとの出会いと震災後の自分|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『シャンハイ』の渡辺謙が語る、イーストウッドとの出会いと震災後の自分

インタビュー

『シャンハイ』の渡辺謙が語る、イーストウッドとの出会いと震災後の自分

渡辺謙が、また国際色豊かな歴史サスペンス映画『シャンハイ』(8月20日公開)に出演。主演にジョン・キューザック、共演にコン・リー、チョウ・ユンファ、菊地凛子と、豪華俳優陣が見応えたっぷりのアンサンブル演技を魅せる。そこで渡辺謙にインタビューし、本作の撮影秘話や今の役者としてのスタンスを決定づけた過去の作品についても語ってもらった。

列強国の陰謀が渦巻く1941年の太平洋戦争前夜の上海を舞台に、男と女の情熱的なロマンスが展開される『シャンハイ』。本作の出演理由はこうだ。「当時、『明日の記憶』(06)と、『硫黄島からの手紙』(06)という映画が僕の中で大きな比重を占めていました。プロデュースもした『明日の記憶』ではプロモーションも精力的にやり、『硫黄島からの手紙』も重い映画だったので、それらをがーっとやっていくうちに、ある種、燃え尽きたみたいになって。そろそろ何かやらなきゃって思った頃、『シルク・ド・フリーク』 と『シャンハイ』という2本の映画の話をもらいました。『シルク・ド・フリーク』はパーッとした作品(ホラーファンタジー)だし、『シャンハイ』も、戦争という大きなフレームがありながら、最終的にはパーソナルな人間の愛憎を描く話。大義や信念など人間の骨太な部分を描く2本をやった後だったから、違う一歩を踏み出すには良い2作だと思ったんです」。

本作の監督は、『ザ・ライト エクソシストの真実』(11)のミカエル・ハフストローム。各国のスターが競演した現場はどうだったのか。「国際色っていう意味では、クリストファー・ノーランだってイギリス人だし、『SAYURI』(05)の現場もそうだった。ただ、今までは僕が欧米人の中に飛び込んでいく作品でしたが、今回はアジア人の中に欧米人が飛び込んできたって感じでした」。『SAYURI』以来の共演となったコン・リーについては、「彼女が役に入っていく時のびくびくと怖がる感じがとても好きです。あんなに作品をやっているにも関わらず、未だにすごく繊細で。尊敬できるし、ある意味、可愛らしい」と語った。

振り返れば渡辺は、アカデミー賞助演男優賞候補になった『ラスト サムライ』(03)以降、前述の作品群を見てもわかるとおり、海外作品に数多く出演してきた。彼にとって作品選びの決め手とは? 「結局、僕らって生ものなんです。近々の話だと、3月にロスから帰ってきたら、こういう社会情勢で、震災が起きたりして、俺、今は日本離れ難しだなって。やはり日本で育ててもらった俳優としては、日本のお客様に何かを返していく必要があるんじゃないかと。出演作って単純に良い作品だからとか、可能性があるからってだけじゃなくて、その辺を含めて考えていくべきじゃないかってね」。

確かに、映画は社会情勢によって製作も興行も左右される。「『沈まぬ太陽』(09)を企画した時、世の中が上向きで、人が飛ばされてずっと我慢する話ってどうなのよって思っていたら、リーマンショックが起き、ある航空会社も傾いてしまって、これは今見る作品だと思っていただけた。作品が持っている運とか不運ってあると思うけど、それは僕らの範疇にはない。そのためには、自分が今求められてることに、忠実に応えていくしかないような気がする。それを実践しているのが僕はクリント(・イーストウッド)だと思う。彼はそういうものを感じ取る力があるなって。クリントはものすごい遠い目標ですね」。

では、渡辺もいつかメガホンをとることを考えているのか?と聞くと、「クリントと仕事をした時、一瞬血迷いました」と苦笑い。「クリントは40年近く撮ってきて、それだけのスタッフを培ってきたから、ああいう形でできていく。僕はまだ監督ってものが何なのかもよくわかっていないし。でも、もし自分の身を削ってでもやるべきだという作品に巡り会えたら、それはやる価値があると思います」。

出演&プロデュース作としては、『はやぶさ 遥かなる帰還』が2012年公開を控える。「みんなが気持ちを一つにして、作品のために何かを捧げていくような空気や体制を整えていくことには、(労力を)惜しまないです。そのことで映画が良くなるなら、掛け値なしでやりたい。やっぱり外国でいろんな才能の人たちと仕事ができたことと、『明日の記憶』をプロデュースしたことが大きかったです。クリントと会った時、映画の作り方や思いみたいなものが同じかもしれないってちょっと思えて、すごく自信になりました。ちゃんと伝えたいって思いがあれば、それで良いってことをクリントを通して確認させてもらえたんです。一方的にですが(笑)」。【取材・文/山崎伸子】

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