三谷幸喜、映画監督と脚本家という2つの人格のせめぎ合いを告白|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
三谷幸喜、映画監督と脚本家という2つの人格のせめぎ合いを告白

インタビュー

三谷幸喜、映画監督と脚本家という2つの人格のせめぎ合いを告白

三谷幸喜の監督第5作目は、満を持して放つ法廷コメディ『ステキな金縛り』(10月29日公開)。三流弁護士エミが、被告人のアリバイを証明するため、何と落ち武者の幽霊を法廷に立たせる!? さすがは日本のコメディキング、発想が斬新かつ大胆不敵。そんな本作を、深津絵里、西田敏行などオールスターキャストで贈る。今や映画監督としても確固たる地位を築いた三谷だが、監督としてはずっと自分にダメ出しをしてきたという。その理由とは?

三谷は、監督第3作目『THE 有頂天ホテル』(06)で興収60.8億円、4作目『ザ・マジックアワー』(08)でも興収39.2億円を上げたヒットメーカーだが、彼自身はその評価に納得はしていない。「脚本家としてはキャリアが長いから、ある程度、僕はこういうものが得意だって言えるところまでは来れたと思っています。でも、監督としてはまだまだです。脚本家の僕が監督の僕を『何てお前はダメなんだ。こんなに頑張って脚本を書いたのに、それをこんな映画にしかできないのか』と叱咤するんです。それが4回も続き、5作目で『まあ、今回はちょっと頑張ったね。これなら次も任せよう』と、初めて脚本家の自分から言われた感じがしました」。

そんな『ステキな金縛り』には、今回も豪華キャストが集結した。主人公エミ役に深津絵里。落ち武者の幽霊・更科六兵衛役に西田敏行。その他、阿部寛、竹内結子、浅野忠信、草なぎ剛、中井貴一、市村正親、小日向文世、山本耕史、戸田恵子、佐藤浩市、深田恭子、篠原涼子、唐沢寿明など、ざっと見ても夢のような顔ぶれだが、その分、別の苦労があるらしい。「皆さん、華があり、力もあるので、もっともっと見たくなる。必然的に一人一人の出番が増えて、シーンも長くなる。でも、編集でカットしなきゃいけない。これが本当に辛いです」。

今回、特に断腸の思いでカットしたのは、六兵衛を除霊しようとする陰陽師・阿倍つくつく役の市村正親のシーンだったとか。「市村さんには本当に申し訳なくて。もともと阿倍つくつくは今の倍くらい活躍するシーンがあったんです。でも、編集してみて、最終的にバランスを考えると、カットするのはそこしかなくて。僕のミスです。そうなると今度は逆に、監督としての自分が、脚本家の自分に『お前が配分を間違えた。この脚本はどう考えてもきっちり撮れば2時間40分はかかる。お前が最初から2時間弱の脚本を書いていれば、俺は一切カットせずに作れたんだ!』ってね」。

脚本家の三谷と、映画監督の三谷が互いにやり合うという点が実にユニークで三谷らしい。でも、常にふたりが混在しているわけではない。「ふたりのせめぎ合いですが、同時には存在せず、脚本を書いてる時は常に脚本家で、撮影の準備が始まった段階ではもう監督になっている。ふたりがあーだこーだやるのは、映画ができあがってからです」。

今回、ようやく監督の三谷が「及第点を取れた」と言うのだから、喜びもひとしおだろう。「法廷シーンには、舞台のような面白さがわりとうまく映像で表現できたかなと。これまでは、舞台の面白さを映像化する時、長回しの方が上手く出ると思っていましたが、今回カットを割ったことで、より舞台の雰囲気が出せたんです。そこに映画のすごさや深さみたいなものを感じました。子供の頃からの法廷映画マニアとしてはすごく嬉しいです」。

三谷幸喜が、表現者として今の地位を築けたのは、常にシビアな目線で自分の作品を見てきたからだ。きっと、自分自身が手厳しい最強の評論家でもあるのだろう。そういう意味でも『ステキな金縛り』は、三谷映画史上、最高傑作と言えそうだ。【取材・文/山崎伸子】

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