「『アバター』にがっかりした」ヴェルナー・ヘルツォーク監督が、3Dでの洞窟撮影に挑んだ理由とは?|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
「『アバター』にがっかりした」ヴェルナー・ヘルツォーク監督が、3Dでの洞窟撮影に挑んだ理由とは?

インタビュー

「『アバター』にがっかりした」ヴェルナー・ヘルツォーク監督が、3Dでの洞窟撮影に挑んだ理由とは?

カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞を受賞した『フィツカラルド』(82)など、かつてニュージャーマンシネマの旗手として名を馳せた鬼才ヴェルナー・ヘルツォーク監督。近年は『グリズリーマン』(05・日本未公開)をはじめ、アイロニカルで優れたドキュメンタリーも手がけている彼が挑んだ初の3D作品が、現在公開中の『世界最古の洞窟壁画 3D 忘れられた夢の記憶』だ。長きにわたって熱望していたという洞窟での撮影話や、実は3D映画否定論者でありながら、3Dで撮影を行った経緯などについて、監督に聞いた。

本作で映し出されるのは、現存する世界最古の壁画を有する南仏・ショーヴェ洞窟。3万2千年前に描かれた壁画は、あの有名なラスコー壁画からさらに1万年以上も遡る歴史を持つ貴重なもので、フランス政府によって厳しく管理されている。人間の吐息や体温でさえ壁画を損傷してしまうため、研究者以外は決して中に入ることができなかったが、「どうしても入りたかった」ヘルツォークは、申請に約1年もの期間をかけて撮影にこぎつけた。「幼少の頃に出会ったラスコー洞窟壁画の写真本が、私に芸術を芽生えさせてくれたんだ」と語るように、ある意味で洞窟壁画がアーティストとしてのヘルツォークを生み出したのであり、彼の並々ならぬ情熱が今回の撮影許可につながった。

撮影隊に許されたのは、1日4時間、計6日間というわずかな時間。しかも、スタッフは監督を含め4人しか入れず、手で持ち運べる機材のみ利用可能という条件が課せられ、困難な撮影となった。「最も辛かったのは、時間制限や撮影スペースの問題より、3Dカメラのフォーカスだった。十分な明るさのある照明を持ち込むことが許されず、暗闇の中でコントロールしなくてはいけなかったが、ピントを合わせるのがとても難しかった」。中には有毒ガスが出ている場所もあったが、「制約のある中で芸術を作り出すため、全スタッフと念入りに意識共有を行ったよ。そして、プロとして仕事に徹した結果、神秘の世界を撮影することに成功したんだ」。

作中で、ある考古学者が洞窟内で不思議な体験をした、と語っているが、監督自身はどうだったのか。「終始、プロフェッショナルに徹し、スケジュール通り順調に撮影をこなしていたんだが、ある壁画の撮影が終わった時、私は数分その壁画の前に呆然と立ち尽くしてしまった。限られた時間しかないから、本当はすぐに次の撮影を行わなくてはならなかったんだけどね。それは言葉にならない時間だった。その体験は今でも忘れられないよ」。

今回、3Dでの映画制作に初挑戦したヘルツォーク。「ジェームズ・キャメロンの『アバター』(09)を見た時、愕然とした。がっかりしたんだ。そしてその時、決して3Dで映画を撮影しないと自分に誓ったよ。もしかすると、周りの方にもそのようなことを言ったことがあるかもしれない」と、3D映画否定派だった彼が、なぜ3Dを使用したのか、非常に気になるところだ。「今回の3Dでの撮影は、私にとって使命に近いものがあったから。私が洞窟で見た壁画はどれも自然が生み出した凹凸に合わせて描かれた立体絵画で、3Dで撮影されるべきものだった。古代に描かれた立体絵画を私が3Dで撮影することはある意味、使命だったろうね」。

偶然にも、ヘルツォークの盟友ヴィム・ヴェンダース監督も、『Pina 3D ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(公開中) で同時期に3Dドキュメンタリー映画を手がけている。ヴェンダースは次回作に3Dの人間ドラマを予定しているようだが、ヘルツォークは「使命であれば私は映画を作り続ける。だが、それは3Dとあまり関係ないね」とのこと。「イマジネーションを観客に与えることが最も大切。先史時代の芸術家が創り上げた芸術は、私に数多くのメッセージとイマジネーションを与えてくれたが、そんな事実の先にある想像の世界を感じさせる映画を作り続けたいと思っている」と、3Dのみにこだわらない、硬派な彼らしい姿勢も見せてくれた。

鬼才を呆然とさせ、使命感を抱かせたという壁画の数々は、驚くほど躍動感にあふれ、写実的で、単純に美しい。現実的に鑑賞不可能な絵画と洞窟を、臨場感あふれる3D映像で堪能するだけでもちろん十分満足できるが、映画の原型とも呼べる古代芸術への監督の思いも是非感じ取っていただきたい。【トライワークス】

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