『わが母の記』ベテラン勢の中で爽やかな印象を残す菊池亜希子「奥ゆかしい女優になりたい」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『わが母の記』ベテラン勢の中で爽やかな印象を残す菊池亜希子「奥ゆかしい女優になりたい」

インタビュー

『わが母の記』ベテラン勢の中で爽やかな印象を残す菊池亜希子「奥ゆかしい女優になりたい」

昭和を代表する文豪・井上靖の自伝的小説を基に、移りゆく時の流れの中で、変わらぬ家族の愛を描いた『わが母の記』。『クライマーズ・ハイ』(08)の原田眞人監督がメガホンを取り、役所広司、樹木希林、宮崎あおいなど実力派キャストが名を連ねるが、その中で、爽やかな印象を残すのが、次女・紀子役を演じる菊池亜希子だ。もともと読書家だという彼女。原作の感想を尋ねると、「井上さんの自叙伝は、すごく書き方にユーモアがあって。全然自分と違う環境であったとしても、何だかとても懐かしい感じがしたんです。親との微妙な距離感とか、姉妹で軽口を叩き合っているところなど、誰もがきっと『あ、うちっぽいな』って思えるんじゃないかな」と魅力を教えてくれた。

役所広司演じる小説家・伊上洪作は、老いて次第に記憶を失っていく母・八重(樹木希林)との関係に悩みながら、妻、そして3人の娘と暮らしている。演じた次女・紀子役の印象は? 「ものすごく引っ込み思案だけれど、紀子は多分、三姉妹の中で一番意志が強い。口では言わないけれど、自分のポリシーを持っていて、こうと決めたら曲げない性格。私も曲げないところは似ていますね(笑)」。

役作りの助けになったものは、緻密に作られた映画の世界観だという。「パトリシア・ハイスミスというミステリー作家がいて、影のある独特の世界を描く人なんですが、紀子の部屋には彼女の本が置いてあって。(宮崎)あおいちゃん演じる琴子は、かたつむりを飼っている女の子なんですが、実はハイスミスがかたつむりの観察をしていた人。紀子の読んでいた本の影響で、琴子はかたつむりを飼っていたかも、という裏設定まであるんです」。

続けて「紀子の自分の好きな世界をしっかりと持っている感じが出せたら良いなと思って、現場に入るまではハイスミスの本を読み漁ったり、神保町の仲の良い古本屋さんに、その時代の書籍や雑誌を教えてもらったりしました。こういう本を読んでいるから、こういう仕草や考え方をするんだなど、キャラクターの背景を考えていくのが好きで。映像には映らない、シーンに切り取られていない部分ってすごく大事だと思うんです」と、役へのアプローチ方法を教えてくれた。

大学では建築学を学んだ彼女。映画作りとの共通点について、「何もないところから立体にしてく作業がすごく好き。映画作りはまさにそうで、そのシーンは一瞬でも、それを作っていくまでの時間や思いがあるほど、奥行きのあるものになるんだと思います。本作も、家族の一瞬を切り取っているけれど、丁寧に作られている分、長い年月を家族で過ごしていたという説得力がある」と語る。

「樹木希林さんは、人間としての深みがあってすごく面白い方!」とベテラン女優から、大いに刺激を受けたようだが、そもそも女優を志したきっかけは? 「もともとはモデルの仕事をしていたんですが、自分の正しい場所はここなんだろうかって、ずっと悩みながらやってきた部分があって。モデルのように、臨機応変に、その日会った人ともの作りをするのも、もちろん面白いのですが、じっくり誰かと向き合って、一つのものを作っていく方が私には合っているんじゃないかと思いました」と告白。「20歳で映画の世界に入った時に、人生で初めて『どうしたら良いかわからない』って思ったんです! 『答えもないし、難しい』って。だからこそ、やれるところまで挑戦したい。その思いで、今やっています」と、力強く答えてくれた。

目指す女優像を聞いてみた。「人を惹きつける、奥ゆかしさを持っている人になりたい。“奥ゆかしい”っておしとやかという意味で使われがちですが、本当は“ゆかし”って、“もっと知りたい”という意味らしくて。その先にまだまだ何かがあると思わせる、深みのある女性になりたいですね」と胸の内を明かすが、紀子役はまさに、その先を見てみたい女性として映る。「そうそう! この映画がすごく温かいのって、紀子はいないけれど、家族で彼女の話をしているシーンがあったり、その場にいない家族の気配を感じられるところだと思うんです」。

彼女にとって、本作との出会いがもたらしたものとは。「私は今、29歳なんですが、ようやくこの歳になって、年齢を重ねてきたんだなとか、肉親たちが歳をとっていくのを実感として経験していて。自分の人生の中でも、家族について考えて、立ち止まる良いきっかけになったんです。親孝行できた気がしますね」と微笑んだ。

柔らかな微笑みと、真っ直ぐな眼差しを持つ女優・菊池亜希子。聡明でひたむきな姿には、頼もしさすら感じた。是非、スクリーンで彼女の輝きをしっかり見つめてもらいたい。【取材・文/成田おり枝】

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