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堤監督の大親友が『MY HOUSE』舞台挨拶で秘話明かす

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堤監督の大親友が『MY HOUSE』舞台挨拶で秘話明かす

堤幸彦監督の新作映画『MY HOUSE』の初日舞台挨拶が名古屋市内の劇場で行われ、堤監督をはじめ、主演のいとうたかお、村田勘、佃明彦、多田木亮佑らが登壇。名古屋にゆかりの深いメンバーが、全編名古屋で撮影された本作の裏話や撮影秘話を明かした。

この日、東京での舞台挨拶を終え、名古屋入りした堤幸彦監督は開口一番「5年という時間がかかりましたけど、皆さんにお披露目できて嬉しい」と口にするなど感無量。続けて「名古屋を舞台に撮影したので、小幡緑地(守山区)とかJR千種駅(監督の出身地は千種区)が登場するんですけど、なかでも東山給水塔は思い入れのある建物なので絶対映像にしておきたかった」と撮影地への思いを語った。

本作は、実在する路上生活者をモデルに、その生き方や幸せのあり方を問う意欲作。主演にはフォークシンガーとして活躍するいとうたかおを抜擢。彼を筆頭に演技未経験者を多用し、モノクロ映像で描くなど、今までの作風を一新した内容に仕上がっている。

その変貌ぶりは、監督と大の仲良しでもある俳優の多田木亮佑も戸惑ったそうで、「普段の監督は『1mm上手(観客から見ると右)に』といった非常に細かい演出をすることが多く、スピード感を重要視するんですが、今回は1カット、1カットを丁寧に撮りあげていて、(余計な)芝居はしないでくれとよく言われました。それぐらい奥が深い演出をしていたので、監督の生身が投影された作品に仕上がったと思う」と親友の作品に賭けた思いを代弁した。

この日、デビュー作の初日を初めて迎えた、いとうたかおは「この作品を撮影中(昨年3月)、還暦を迎えまして、感慨深いものがあります。当初、台本には7ヶ所ぐらい“笑う”と書かれていたのですが、にっこり笑うシーンで笑ったら、監督から『笑うのなしにしましょう』と言われて」と劇中で笑顔が封印されたことを明かし、「わざとらしくなく笑うのは難しいので練習してたのに」と笑顔で不満をぶちまけ、会場の笑いを誘った。それを受けた監督も「見ればおわかりいただけると思います」と語り、「劇中でいとうさん演じる鈴本が曲がった釘をまっすぐにするシーンがあるのですが、これが非常にお上手で。自転車を漕ぐシーンも、これでもかと芸術的に(空き缶を)積んでいるんですが、あれ全部本人ですので」と裏話を披露した。

モノクロ映像ゆえに、いつもと違った光景が広がる本作。思いのほか、食事のシーンも多く。美味しそうに描かれている。市職員役を演じた多田木が「実際、白川公園で仲良くなった方も美味しそうな食事をしていた」と明かすと、鈴本のお隣さん(?)で画伯役を演じた佃明彦も「僕はうどんしか食べてないんですけど、美味しかったです」とコメント。すると監督が「あれは味噌煮込みうどんなんです」と明かし、細部にまでこだわる監督ならではのエピソードを披露した。

そんな大人たちの話を緊張した面持ちで聞いていたのは、もうひとりの主人公、エリート中学生ショータ役を演じた村田勘。「ショータと素の僕はだいぶ違うので、わからないところは監督から教わりました。コーラを飲むシーンでは、途中でゲップが止まらなくなって大変でしたけど、飲み込んで演じました。貴重な経験ができたので、将来“大”俳優になりたいです」と目を輝かせながら大人顔負けにコメントした村田は、会場をさらに和やかな空気で包み込んだ。

最後に、多田木の「この映画を観ると明日から優しくなれます」との言葉に「そんな効能があるんだ」と驚いた堤監督は「自分の足で立って生きている人は独特の強さと優しさがある。モデルになった鈴木さんも、都会の幸を利用してタフに生きている。彼が持つ自由と私たちが抱く自由は何が違うのか、考えるきっかけになれば」と言葉を締めくくった。

舞台挨拶終了後、堤監督に名古屋で撮影した真意を聞くと「愛知万博の時、路上で生活する人と行政がうまくいかなかった事実がありながら、未だ芸術的なまでに空き缶を自転車に積み上げ走ってる方々がいる。だから、名古屋はこの問題を映画にするのにぴったりな街だなと思いました。鈴本のモデルである鈴木さんは、隅田川の川べりに暮らしているのですが、僕は、公園という牧歌的なユートピアみたいな暮らしをしている設定にしたかった。あと、これはきちんとリサーチしたわけではないのですが、東京に比べ、名古屋は持ち家率がすごく高い。もっと言えば、木村多江さん演じる潔癖すぎる主婦の旦那は医者という設定ですが、名古屋には不思議なぐらい医者が多い。特に私が生息していた地域では、歯医者だらけでしたから。また、村田くん演じるショータは、スーパーエリートとして居続けるため『将来のために今、頑張れ』と言われ続けるのですが、あれは私が生まれ育った頃の名古屋を象徴しています。なになに町の誰それ君ではなく、なになに高校の、なになに大学の誰それ君。当時は、どこに所属しているかが重要な意味を持っていたので、それをストレートに描きました。今さら社会派監督を名乗るのもナンセンスだけど、50歳の半ばを過ぎて自分の気持ちに正直な作品を撮ろうと思うと、どうしても社会的な意味を持つ作品を選ぶ傾向があるみたいで、そういう作品を撮り続けるうえでも、名古屋という、僕にとっての培養液はどうしても必要。そういう意味でも名古屋は『MY HOUSE』的な場所なんじゃないかなと思いますね」という答えが返ってきた。

名古屋弁については、「非常にシリアスな場面で、シリアスさはキープしながらも温かみを出せるのが良い。ちょっと突き放した感じの言葉回しでも、名古屋弁にすると非常に良いあんばいで。多田木さんの言い方なんて、実に和らぎますよね。市の職員という権力の象徴みたいな立場で、実はクールなことを言っているのに、そう聞こえないところが良いい。バザーのおばさんも「空き缶、段ボールを持ってかんでちょーよ」って言ってるのに、何か憎めない。目に見える言葉と行動だけではない、感情を醸し出してくれたなあと思います」と語ってくれた。

監督の作中には、よく名古屋ネタが登場する。だが、ギャグとして描かれない名古屋が登場するのは、今回が初めてのように思える。監督再デビューを公言し、踏み出したその一歩を、どうかその目で確かめてほしい。【取材・文/大西愛】

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