動物園を買った家族の物語『幸せへのキセキ』原作者が語る、幸せへのキーワードとは|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
動物園を買った家族の物語『幸せへのキセキ』原作者が語る、幸せへのキーワードとは

インタビュー

動物園を買った家族の物語『幸せへのキセキ』原作者が語る、幸せへのキーワードとは

廃園寸前だった動物園の再生を通じて、愛する人の死を乗り越えていく家族を描いたヒューマンドラマ『幸せへのキセキ』が6月8日(金)より公開される。この奇跡のようなストーリーは、英国人ジャーナリストのベンジャミン・ミーがダートムーア動物園を開園させるまでの実話に基づいたものだ。経験も知識もなかった彼が、200頭を超える動物たちとの新たな生活を通して得たものとは。来日したベンジャミンを直撃した。

完成した映画を見た感想を聞くと、「ニューヨークのプレミアで上映が始まった瞬間、色々なことを思い出してしまって、やっぱり辛かったんだ」と正直な言葉を漏らした。というのも、ベンジャミンは、愛する妻キャサリンを脳腫瘍により40歳という若さで失っている。妻の面影を求めてしまう姿など、「映画を見ていても、急に現実に戻されたような気持ちになってしまった」と続ける。

その喪失感を見事に体現し、ベンジャミン役を担うのはマット・デイモン。自分を演じてくれた彼に対しては「僕はもともと『ボーン』シリーズの大ファンでもあったし、スタッフとの掛け合いを見ていても、物事を色々と考えて行動する人だという信頼を感じた。僕の子供たちともすぐに友達になってくれて、本当に良心的な、良い男なんだよ」と、全幅の信頼と敬意を表した。

ふたりの子供を抱えるベンジャミン。映画では、反抗期に母を失った長男との衝突、そして絆を取り戻していく姿が描かれる。「この関係性は多くの人が共感できると思う。でも、実際の僕と息子の関係とは違うんだ」と明かすが、悲しみを乗り越えるために、家族にとって必要だったものとは?「妻が化学療法を受けている時には、もうあまり長くはないだろうと思っていたから、僕は子供たちが小さな頃から、ちゃんと全てを説明するようにした。『お父さんと色々なことを話し合って良いんだよ』と伝えて、そういった関係性を保つことが大事だったと思う」。

「動物園の準備を進めることは、辛い気持ちを浄化してくれた」と語るベンジャミン。動物との生活、そして彼らから学ぶことを心から楽しんでいる様子がひしひしと伝わってくる。インタビュー時も、たくさんの写真を広げて動物との生活を話してくれた。「このバクの赤ちゃん、すごく可愛いだろう! この子はほとんど死産に近い状態で産まれた。バクっていうのは、実はものすごく力の強い動物。だから、僕らがバクの赤ちゃんに触ったりしたら、母親バクが襲ってきてもおかしくない状況だった。でも、僕らが一生懸命、赤ちゃんをマッサージしたり、ミルクを飲ませたりしているのを、母親バクはじっと見守っていた。僕らが赤ちゃんを助けようとしているのが伝わったんだ。こうやって続いていく命と関わって、動物と通じ合えたことは本当に感動的だった」。

「どんなに辛いことがあっても、日々、命の営みは続いていく」という彼から感じるのは、前を見る力と、どんな時もユーモアを忘れない温かな人柄。様々な出来事を乗り超えてきた今、感じる“幸せへのキーワード”とは?「自分の決めたことを、決して後悔しないこと。そしてチャンスを無駄にしないこと。これまでの道のりはとても楽なものではなかったし、動物園に取り掛かることが、こんなに大変なことだとも思っていなかった(笑)! でも、一生懸命に頑張っていると、必ず誰かが手を差し伸べてくれるものなんだ。その連続でここまで来られたんだよ」。

これから挑戦したいことを聞くと、「チャレンジはこれで十分かな!」と笑いながらも、「まだ借金も残っているから、まずは自転車操業で僕がハラハラしないように経営を安定させたい。そして将来的には、動物園の園内で動物の生態をリサーチする研究機関を併設したい。特に今、オランウータンと象の生態に深い興味があるんだ。これからも間近で研究していけたら、とても幸せだと思う」と目を輝かせた。どうやら、ベンジャミンの冒険はまだまだ続きそうだ。

命の尊さを受け止め、一歩、一歩、悲しみから立ち上がっていく家族の姿は生きる希望に満ちている。メガホンを取るのは『あの頃ペニー・レインと』(00)のキャメロン・クロウ監督。随所にユーモアを散りばめて、愛情たっぷりのドラマに仕上げた手腕はさすがだ。是非スクリーンで、家族の再生と冒険の物語に胸を熱くしてほしい。【取材・文/成田おり枝】

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