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【追悼】名優・大滝秀治を高倉健、降旗康男監督、三浦貴大が偲ぶ

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【追悼】名優・大滝秀治を高倉健、降旗康男監督、三浦貴大が偲ぶ

舞台や映画、ドラマなどで味わい深い演技を見せてきた俳優・大滝秀治が、10月2日に肺扁平上皮がんのため、87歳で亡くなった。今井正監督作『ここに泉あり』(55)でスクリーンデビューして以来、市川崑、伊丹十三、山田洋次、降旗康男ら、そうそうたる名監督の常連俳優として、昭和史に残る作品に数多く出演してきた。現在公開中の降旗監督作『あなたへ』でも、高倉健との共演シーンで、含蓄のある名演を見せている。

撮影時、共演の高倉健は、大滝との共演シーンで涙を流したという。それは、大滝扮する船頭の大浦吾郎が、「久しぶりに、きれいな海ば見た」と語るシーンだ。高倉は「あの芝居を間近で見て、あの芝居の相手でいられただけで、この映画に出て良かった、と思ったくらい、僕はドキッとしたよ。あの大滝さんのセリフの中に、監督の思いも、脚本家の思いも、みんな入ってるんですよね」と語っていた。とても短いセリフだが、その時の大滝の感慨深い表情は、ドラマの余韻を増幅させる。

大滝自身も、高倉健との共演について、「役者の芝居で一番難しいのは普通にやることですね。普通にやるためには、よっぽどぎっしり詰まっていないと。だから、高倉さんには非常になるほどと思って感動しております」というコメントを寄せている。昭和の映画界を駆け抜けてきた名優が、互いにリスペクトの念を感じていたことが手に取るようにわかる。

高倉健は、今回の訃報を受けて、お悔やみのコメントを発表した。「大滝さんが今年に入り体調を崩され、入院なさっている間、お手紙の遣り取りを続けておりました。大滝さんの最後のお仕事の相手を務めさせて戴き、感謝しております。今までにご一緒させて頂いたいろいろな場面が思い浮かびます。本当に素晴らしい先輩でした。静かなお別れができました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。合掌」。

『あなたへ』以外にも、『駅 STATION』(81)、『居酒屋兆治』(92)、『あ・うん』(89)など、高倉健×降旗康男監督の黄金タッグ作で、名脇役ぶりを発揮してきた大滝に、降旗監督も追悼コメントを発表した。「大滝さんとは『冬の華』(78)で健さんのお兄さん役として出ていただいてからのお付き合いでした。健さん主演の映画にはよく出ていただき、アクセントになる演技をしていただきました。思い入れの深い作品にいくつも出ていただきました。今回は漁師役ということで、散骨のシーンで一度だけ船に乗って外海にまで出ていただきました。外海に出ていくお元気な姿が最後になってしまったのが残念です。ご冥福をお祈りいたします」。

そして、『あなたへ』で、大滝扮する船頭の孫・大浦卓也役を演じた三浦貴大も、同じくコメントを寄せた。「普段は優しく声をかけてくださり、笑顔が素敵な方でした。しかし、一度芝居の現場に入れば、真摯に、そして厳しくご自分の役に向かっていくその姿に、役者として大切な物を学ばせていただきました。大滝さんと共演し、同じ場所に立てたことは僕の宝物です。ご冥福をお祈りいたします」。

映画だけではなく、劇団民藝の代表を務め、舞台俳優としても精力的に活動しながら、「特捜最前線」や「うちのホンカン」など、数多くのドラマで、お茶の間でも人気を博してきた大滝秀治。気骨な頑固オヤジから、極悪人、親しみやすいひょうきんなおじいさんまで、いろんな顔を見せてきた。彼が演じたそれぞれの役柄の深みは、きっと大滝自身の人生の年輪の深さなのだろう。昭和の名優のご冥福を心からお祈りしたい。【文/山崎伸子】

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