ニック・カサヴェテス監督『イエロー』主演女優が語る、インディペンデント映画の力|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
ニック・カサヴェテス監督『イエロー』主演女優が語る、インディペンデント映画の力

インタビュー

ニック・カサヴェテス監督『イエロー』主演女優が語る、インディペンデント映画の力

ニック・カサヴェテス監督の『イエロー』が、現在開催中の第25回東京国際映画祭コンペティション部門に選出されている。『きみに読む物語』(04)や『私の中のあなた』(09)など、既に商業監督として実績もあるニック・カサヴェテス。『イエロー』は、原作ものや実話ものを除くと、監督デビュー作の『ミルドレッド』(96)以来となるオリジナル脚本の作品だ。そこで、共同脚本・主演女優を務めたヘザー・ウォールクィストを直撃し、ふたりが本作に込めた思いを聞いた。

ヘザー演じる主人公メアリーは、社会との距離を感じている代理教諭の女性。精神的な不安から安定剤をぼりぼりかじることで、何とかバランスを取ろうとしている。そのうちに学校もクビになり、お金もない。お金の無心のために会った妹とは、レストランで大バトルを繰り広げるなど、数々のトラブルが彼女を取り巻いている。「脚本を作る時には、ニックと一緒にアイデアを出し合っていったの。実はレストランのバトルは本当の出来事。実際の私の姉妹と、まさにあのレストランで、あの路上で、鞄を他人の家に投げ込んで(笑)。ロスのあのレストランは、出入り禁止になったくらいよ。今回の撮影で、やっと行くことができたの!そうやって、発想や経験を元にピースを集めっていったのよ」。

メアリーというキャラクターを分析すると?「メアリーはすごく内向きな人。自分の行く先に向かっていくに当たって、世界との関わりをできるだけ最小限にしたいと思っている。人にはそれぞれ痛みがあるし、周りには雑音が多すぎる。趣味に没頭したり、瞑想したり、教会に行ったりと対処法は色々あるけれど、彼女にとってはそれが安定剤だったのね。アメリカではよくあることなのよ」。

キャラクターには自身の反映も大いにあるというが、最も顕著なのはメアリーのポジティブな面だと続ける。「よくよく考えてみたけれど、『全然問題ないじゃない!?』って思えるのが彼女。トラブルばっかりで、『そんな馬鹿な!』って思うけれど、ほとんどの問題ってそんなに大事じゃないもの。大抵が、考えすぎて問題を大きくしてしまっている。誰にだって問題があるし、自分ができる範囲で対応すれば良い。私もいつも何かあると、『だって、しょうがないじゃない、そのまま行こうよ』って思うようにしているのよ」。

罵り合いがミュージカルに変わったり、食卓を囲む家族が豚や鳥に変身してしまったり、メアリーの妄想や心象風景が豊富なイマジネーションによって、ユニークに描き出される。お気に入りのシーンを聞いてみた。「メアリーが教壇に立っているうちに、教室に水が流れ込んでくるシーン!あの時の彼女は、色々なトラブルで頭がいっぱい、いっぱい。子供たちがワーワーと騒いでいるのを目にしていたら、『教室が水であふれてしまって、泳いでどこかに行けたら良いのに』って妄想しているのね。たとえば、会議中に『どこかに行ってしまいたい』って思うことあるでしょう(笑)?」。

頭の中にある妄想をスクリーンに映し出し、共有できるというのは、映画の力を感じられる瞬間だ。「全くその通りよ!誰だって頭の中では色々なことを考えているもの。窓の外にキングコングがいたらって想像したりね。映画の中のシーンもクレイジーでワイルドだと思うかもしれないけれど、頭の中のイメージを取り出していると考えれば、全然クレイジーなことではない。逆に言えば、誰だってクレイジーだっていうことね!そう考えない人は、自分の気持ちや考えにうまく対処できていないかもしれない。ノーマルな人なんていないんだから(笑)。単に、人それぞれ違うだけ。それを受け入れてしまえば良いと思うの」。

ニックとヘザー、ふたりの素直な気持ちや撮りたいイメージを詰め込んだ作品となったようだ。「『こうしなさい』って誰かに指示されなければいけないなら、今回の映画は作らない方がマシだと思ったくらい。自分たちのやりたいようにやった作品よ。家も抵当に入れてしまって、お金を集めて、完成させるまでに3年もかかった。ニックはもともとインディペンデント系の人。お父さんのジョン・カサヴェテスも、彼がいなかったらインディペンデント映画はなかったと言われるくらいの人で。ニックの寝室はジョンの編集室でもあったらしいのよ!」。

続けて、涙ながらにこう語ってくれた。「メジャー作品はそれはそれで素晴らしいけれど、インディペンデントの製作は、自分の本当に語りたいストーリーを伝えたいから取り組むこと。この映画で東京国際映画祭に来られたというのも、その必要性を認識してくれたからだと思う。コンペティションで選定されたのは、一番光栄なこと。そして、ニックと私、私たちふたりの娘と一緒に、家族として東京に来られたのは、私にとって本当にマジカルなことなの」。

表情豊かに生き生きと、こみ上げる思いをたっぷりと話してくれたヘザー。一方のニックは、映画祭のステージで「年を重ねるにつれて、自分の頭の中にあることを誰に何と言われようとも思った通りに言えるのが良いと思った。若いクリエイターたちには、『頑固に信念を貫け』と言いたい」と熱く語りかけた。彼らの愛がぎゅっと詰まった作品に仕上がった『イエロー』。日常に疲れた大人たちを励ますだけでなく、クリエイターにとっても大いに刺激となる作品である。【取材・文/成田おり枝】

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