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副賞100万円に「それは振込ですか?」TIFFで浮き彫りになったインディーズ映画界の現状

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副賞100万円に「それは振込ですか?」TIFFで浮き彫りになったインディーズ映画界の現状

第25回東京国際映画祭が10月28日に閉幕。東京サクラグランプリと監督賞に輝いたのは、フランス映画『もうひとりの息子』。続いて、韓国映画『未熟な犯罪者』が、審査委員特別賞とソ・ヨンジュの最優秀主演男優賞と、同じく二冠に輝いた。日本映画では、松江哲明監督作『フラッシュバックメモリーズ 3D』が観客賞を受賞したが、スピーチで印象的だったのは、日本映画・ある視点部門の作品賞を受賞した『GFP BUNNY タリウム少女のプログラム』の土屋豊監督のコメントだ。副賞100万円について、「それは振込ですか?」と身も蓋もない質問をしたが、彼のスピーチから、今、苦戦を強いられている日本のインディーズ映画界の現状がひしひしと伝わってきた。

『GFP BUNNY タリウム少女のプログラム』は、2005年のタリウムによる母親毒殺未遂事件を起こした「タリウム少女」から着想を得たメタフィクション映画だ。受賞のトロフィーを手にした土屋監督は「名誉ある賞をいただいて嬉しいです」と喜びながらも、自身の厳しい経済状況についても赤裸々に語った。

本作の製作費400万円を自費で捻出したという土屋監督。「これから宣伝配給で200万かかり、600万を自分で何とかしなきゃいけない。でも、そうやって自分のお金を費やしてでも、世の中に何かを発したいと思って撮る映画が、今後続いていくためにも、配給宣伝の200万円分をクラウドファンディングで募集しています。そうやって成功していくことが、若い人たちの励みになると思うので」。

日本映画・ある視点部門の審査委員を務めた映画評論家の村山匡一郎は、土屋監督の言葉を受け、「日本のインディーズは予算的に大変だとは思ってます」と言いながら、今回の選出作について辛口の総評を口した。「出品された9本は、家族の崩壊、震災での被災地、新興宗教がわりと目立つ、暗いラインナップでした。そのテーマは日本の今の現実を反映していて、それ自体は評価して良いのかなとは思っています。ただ、映画はあくまでも、そうしたテーマを物語力、構成力、あるいは映像力でどこまで提示できるかが勝負です。その点では、見てて物足りないような思いが審査委員一同にありました。そのなかで、土屋監督作は、実際にあった事件から着想を経て、複数の視点を構造化することにより、一種大胆な、エネルギッシュな創作意欲が感じられました。それが評価理由です」。

同じく審査員の一人である『神様のカルテ』(11)、『ガール』(12)の深川栄洋監督も、これからを担う若い映画人を激励すると共に、愛ある喝を入れた。「映画会社が映画監督を育てられなくなって、勝手に育たなければいけない状況があります。ある視点部門では、世の中に爆発させる爆弾を作るんだと思って動いてほしいです。もっともっと精密な爆弾を作ってほしい。正直、満足していません。驚くべき才能ってのは、まだ見られなかった。賞をもらうと満足して成長が止まってしまうので、今回、僕の言葉を受け取っていただいて、すぐにまた新しい作品を作っていただければ幸いです」。

また、『モテキ』(11)、『おおかみこどもの雨と雪』(公開中)などを手掛けた東宝のプロデューサー川村元気も深川監督たちと同じスタンスで、若き映画人たちにエールを送った。「私はメジャー映画会社で映画を作っている人間ですが、インディペンデントにできることは、正直、ゲリラ戦というか、メジャーではできないような、驚くようなことをやってみることかなと。それが日本の映画興行界においても、世界の映画祭においても重要じゃないかと思っています。是非、より目立つ作品がやってきて、驚かされる日を楽しみにしています」。

実際、ミニシアターが衰退し、シネコン全盛期となった今、インディーズ映画の置かれた環境は実にシビアだ。東京国際映画祭では、昨年のサクラグランプリ受賞作『最強のふたり』(公開中)の大ヒットは嬉しいニュースとなったが、それぞれの部門で上映された作品群にも、続けてスポットを当てていくような配慮が要求されるだろう。【取材・文/山崎伸子】

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