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堺雅人「保健所で見た犬たちの目が忘れられない」

インタビュー

堺雅人「保健所で見た犬たちの目が忘れられない」

堺雅人が、主演映画『ひまわりと子犬の7日間』(3月16日公開)で、彼の故郷である宮崎県でロケをし、念願の宮崎弁での演技に初挑戦した。本作は、2007年に宮崎県の保健所で起こった犬と人間の奇跡の実話を映画化したものだが、命を巡るドラマが誠実に紡がれていて、作り手の信念をひしひしと感じた。堺にインタビューし、本作の撮影秘話を聞いた。

本作で監督デビューを果たしたのは、山田洋次監督の下で、共同脚本や助監督を20年に渡り務めてきた平松恵美子だ。平松監督について堺は「家族もきれいごとばかりじゃいられない。いろんな問題を抱えながらちょっとずつ折り合いをつけ、ちょっとずつ前へと進んでいく。本作ではその部分にも目を背けず、きちんと描いています。家族を描くという意味では、平松さんは素晴らしいキャリアをお持ちだと思っています。」と称える。

堺が演じたのは、保健所の職員・神崎彰司役で、彼とその家族が、人間不信に陥った母犬と生まれたばかりの子犬の命を救おうと奮闘する。「台本を読んで一番驚いたのは、殺処分を描いていることでした」と真摯な目で語る堺。「それでいて、ご家族で楽しんでいただける心温まるお話になっているところがすごいなと。(配給会社の)松竹さんのほんわかした動物ものの映画の歴史があるなかで、陰の部分もしっかりと盛り込まれた内容が素晴らしいと思いました」。

宮崎ロケの最初のシーンが、いきなり保健所でのロケだったと言う。「そこで彰司のモデルとなった県職員の上野さんに会い、実際に収容されている犬たちを見るところから始まったんです。その時に見た犬たち一頭一頭の目が忘れられないですね。威嚇した目やおびえた目、遊んで遊んでという目。でも、ある期間が過ぎたら、全員いなくなっちゃうんですよ。ひまわり(本作の母犬)はたまたま救われたけど、実際には奇跡が起きなかったという犬猫たちが約20万頭もいる。それが現実なんです」。

保健所の職員という仕事についてはこう思ったそうだ。「基本的に、動物好きの方にしかできない職業だと思います。職員の方にお聞きした話で印象に残っているのが、殺処分のボタンを押す直前まで『うちの子いませんか?』という電話をどこかで待っているということです。でも実際には助からないことの方が多い。本作では、そういった現実から目を背けてはいないんです」。

堺は本作における希望についてこう受け止めている。「目をつむり、現実逃避するわけでもなく、かと言って絶望するでもない。答えはその真ん中にある気がします。家族なんてトラブル続きで、毎日毎日がせめぎ合い、騙し合いというか、帳尻を合わせながらも、みんなが1日1日を過ごしている気がします。でも、そのなかには確かに愛がある。最後の最後まで希望を失わないことが大事なのかなと」。

犬と人間とのふれあいを描くファミリー映画は数多くあるが、本作は決して予定調和なきれいごとだけを見せているわけではない。厳しさ、切なさ、割り切れない思いもちゃんと盛り込まれているからこそ、ラストの着地点が実に味わい深い。是非、幅広い層に見てほしいと願う。【取材・文/山崎伸子】

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