「相手のことを考えすぎるから言葉が出てこない」松田龍平が感じた言葉の持つ希望|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
「相手のことを考えすぎるから言葉が出てこない」松田龍平が感じた言葉の持つ希望

インタビュー

「相手のことを考えすぎるから言葉が出てこない」松田龍平が感じた言葉の持つ希望

三浦しをんの同名ベストセラーを映画化した『舟を編む』が4月13日(土)より公開。辞書作りという仕事に取り組む人々の情熱、そして一人の青年の成長をユーモアと人情味あふれる語り口で綴った原作は大いに話題となり、2012年度の本屋大賞で1位に輝いている。待望の映画化で主人公の馬締光也役に抜擢されたのは、松田龍平だ。「馬締を通して、人は真面目である必要があるんだなと感じた」という。役柄から得た刺激、そして15年の役者人生を語ってもらった。

主人公・馬締をはじめとする個性豊かな辞書編集部員が、15年の歳月をかけて、見出し語24万語に及ぶ新しい辞書を作り上げていく姿を丁寧に描く本作。脚本を読んだ印象を聞くと、こう振り返った。「とにかく、辞書を作るというテーマが面白いなと思いましたね。今までにはないテーマだと思ったし、僕自身、辞書作りがどういう仕事なのか全く想像がつかなくて(笑)。でも、実際にやっていくと、作業としては特殊かもしれませんが、言葉自体は少しずつ人の生活のなかから生まれたり、なくなったりしていくものなので、すごく人の生活に身近な仕事なのではないかなと思いました」。

さらに興味を引かれたのは、馬締というキャラクターだ。ミステリアスであったり、シリアス、コミカルなものなど、様々な役柄に挑んできた彼だが、変わり者の馬締役は新たな松田の一面を発見できる、新鮮な役柄となった。「辞書を作る馬締自身が、言葉を使ってコミュニケーションを取ることが苦手な人というのがまた面白いんですよね。本のオタクで、言葉をたくさん知っているのに、それを知識としてとらえてしまっている。そんな彼が辞書作りを通して、言葉は人に自分の気持ちを伝えるため、相手の気持ちを知るためのツールなんだということを知っていく。馬締はなかなか言葉をうまく伝えられないけれど、決して諦めようとはしない。そのもどかしさが伝われば良いなと思いましたね」。

言葉が伝わらないもどかしさ。馬締の戸惑いには、共感できる点が多かったという。「言葉はやっぱり難しいと思うんです。必ずしも自分の言いたかったことと、相手が受け取ることは一緒ではないので。怖いなとも思うけれど、人と関わり合うなかでは、それが面白いことだったりもする。相手のことを考えすぎるからこそ、言葉が出てこなかったりもする。それは、相手がいるからこそ成立する感覚で。角度を変えて見れば、怖いものも面白いものになり得るし、自分次第で世界は180度変わるものだと思うんです」。

一つの言葉をあらゆる角度から見つめていく馬締を通し、発見したのは言葉の持つ希望だった。「辞書には何十万語という数の言葉があふれていて、まだまだ世の中に言葉が増えている。それは、なぜなのかなと考えてみたんです。人に気持ちを伝えたいとか、相手の気持ちを知りたいという思いから、これだけの言葉が生まれているわけですよね。携帯でもみんな絵文字を使ったり、本当はカタカナの文字を平仮名に変えたりして、微妙なイントネーションを伝えようとしている。それはある意味、人間の持つ、人とつながりたいという思い、その希望の表れだと思うんです」。

辞書作りに取り組む一方で、馬締は宮崎あおい演じる林香具矢に恋をする。「宮崎さんは本当に素敵でしたね。香具矢のクールだけど、実は弱さを感じる部分ですとか、そういう役がぴったりだなと。宮崎さんだからこそ感じられることは多かったですね。馬締と香具矢には、“男女”を感じるシーンがあまりなくて。人生において、恋が燃え盛る瞬間は、すごく一瞬だと思うんです。これはその瞬間を描いている映画ではないので、その後の生活や、人生が続いていくということを意識した関係性なんですよね。馬締も香具矢も、それぞれ頑張って仕事をしていて、それでいて香具矢は少し距離感を取りながら、馬締の背中を見ていてくれる。心だけで通じ合っている、そういう関係は素敵だなと思いました」。

15年の歳月をかけて、一つの仕事に取り組む登場人物たち。松田も俳優人生15年目となった。続ける原動力となったものは何だろう?「これまでを振り返ってみると、15年も経っていたんだという感じですね。またやりたいなと思わせてくれるのは、やはり人との出会いですね。ただ、馬締みたいに『これが一生の仕事です』と言えるかと聞かれたら、『はい』とは言えないというか(笑)。それを決められない恐怖もあるし、だからこそ、馬締が羨ましいなとも思いますね。『一生の仕事』と言えるのはすごく格好良い」。

さらに受けた刺激をこう話した。「馬締は不器用ですが、前向きに行動を起こせる人。彼を通して、真面目である必要はあるなと感じました。やっぱり、どんな仕事も不真面目にやっていると、それは返ってきてしまいますから。真面目のあり方は、人それぞれ違うとは思いますが、自分なりの真面目があれば良いなと思います」。

映画を見た後に残るのは清々しい爽快感だ。果てしない言葉の海に飛び込んだ馬締の仕事は、まだまだ続いていく。彼を取り巻く人々も、日々の生活を懸命に生き続けている。そんな息遣いが伝わってくる。「それが、この映画の一番のミソなんですよね。辞書作りが一応、発売というゴールを迎えたとしても、その後の人生は続いていく。淡々とした日常のなかで、見逃してしまっているような幸せを少しでも感じてもらえたら嬉しいです」。

クールな外見とは裏腹に、「人生にゴールはない」という思いを真摯に熱く語ってくれた松田龍平。映画作りという舟に乗り込んだ、彼の旅路がこれからも楽しみだ。【取材・文/成田おり枝】

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