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アイドルから完全脱出!カーレーサー役でザック・エフロンが新境地

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アイドルから完全脱出!カーレーサー役でザック・エフロンが新境地

「ハイスクール・ミュージカル」などでティーンのアイドルになったザック・エフロンは、そのイメージを一新すべく、昨今では笑顔の少ない複雑なキャラクターに挑んでいる。

『ペーパーボーイ 真夏の引力』(7月27日公開)ではニコール・キッドマンに放尿されるというリスクを犯したザックが、今度はレーサー役に挑んだ新作ファミリードラマ『At Any Price』で、デニス・クエイド、ヘザー・グラハム、ラミン・バーラニ監督らと記者会見に出席した。

第69回ヴェネチア国際映画祭、第37回トロント国際映画祭、そして第12回トライベッカ映画祭に出展された同作は、生き残りをかけてアイオワの農場で家族が繰り広げるサスペンスドラマだ。

先祖代々引き次がれててきた農地を躍起になって守ろうとするデニス扮するヘンリーだが、ザック扮する息子のディーンは農場には全く興味がなく、レーサーになることを夢見ている。順調に縄張りを広げるヘンリーの強引過ぎるやり方に邪魔が入り、存続の危機が危ぶまれた時、ディーンの出た行動で思わぬ方向にドラマが展開するが、ヘンリーを演じたデニスと監督は、昨今のアメリカの農業事情について口をそろえてこう語る。

「私(デニス)はテキサス生まれで、祖父が1940年代に農業に携わっていたが、その頃と現在とでは農業事情は全く異なっている。今は、まさにウォール街が西の農業の世界にやって来た感じで、農夫ではなく、ヘッジファンドやマーケティングがわかるビジネスマンでないと農業を営めない時代になってきた。iPhoneも持っているしね。もちろん一人、一人はとても良い人たちだけど、スマートでなくては生き残れないんだ。ウォール街もジャーナリストも同じだろうが、彼らも、食うか食われるかの、ものすごいプレッシャーの中で生きている。良い、悪いではなく、それが現実であり、ロマンティックとは言えないのが現状」だという。

「父親のヘンリーは、そのサバイバルゲームに勝ち抜くことに躍起で、家族を守ろうとする気持ちが強かったのもわかるけど、ディーンにとってはそれが重荷でしかなかった」というザックは、役作りについて「僕はカリフォルニアのサンルイスオビスポっていう、周囲には農場がいっぱいある田舎で育ったから、友達の家族とかにもそういう人がいる環境にいた(ザックの父親はエンジニア)、という意味では溶け込みやすかったとも言えるね。逆に、カーレース(NASCAR)の知識はほどんどなかったんだ。サンタマリアっていう場所には、映画に出てくるようなレース場があって、年に一度、父親にレースを見に連れて行ってもらったことくらいしかなかったからね。撮影では、『車に乗って140マイル出せ』って言われたんだ。自分で運転したんだけど、すごいスピードだった」のだとか。見どころの一つであるレースシーンではレーサーとしても見事な腕前を見せてくれたザックだが、農夫の息子であることよりもレースの勉強をする方が大変だったようだ。

父親がピンチになっていることに動揺したディーンが、トウモロコシ畑で誤って人を殺してしまうというクライマックスシーンについては、「誰もいない、トウモロコシ畑に駆けつけたヘンリーと、ディーンが見つめ合うシーンを見れば、デニスとザックがいかに素晴らしい役者であるかを証明するのは簡単だ。もう少し短い間でセリフを入れるつもりだったんだけど、ザックの身体や表情、目からあふれるエネルギーを見ていたら、まるで『僕が何かセリフを言うまで、黙ってくれ』って言わんばかりだった。だから、見つめ合っている時間もかなり長くなった。自分が考えていたものとは変わったものになったし、あまりカットもしなかったんだ。彼らを見ていれば、心の動きも全てわかるはずだ」と、監督が絶賛するとおり、ふたりの全身からあふれ出る懇親の演技はまさに圧巻と言えよう。

監督自らが6ヶ月も農地で生活してリサーチして完成したとあって、「とても良い脚本だったし、良し悪しは別にして父親としてのヘンリーの気持ちもよくわかる」というデニスは、元妻メグ・ライアンとの間に息子が、そして2012年に離婚した妻との間には双子の子供がいる3児の父親であり、余計に実感がこもっているのかもしれない。

そんな監督の絶賛を嬉しそうに聞き入るザックは、シャツにジーンズというラフな格好で記者会見に臨んだが、花粉症で身体が痒いのか、ジーンズや捲り上げたシャツの袖の上から身体をポリポリ。少々落ち着かない様子だが、しかし一度マイクが向けば、「最初ヘンリーが駆けつけた時の表情は、明らかにディーンを責めていた。そして正しいこと、警察に電話をしようと思っていたはずだ。だけど、お互いが見つめ合っていくうちに、明らかに何かが変わっていくんだ。彼は、父親として、ただ家族を守ろうとしたんだ」と力強く語り、アイドルを脱出し、確実に演技派俳優への一歩を踏み出したことを確信させてくれた。

東日本大震災をきっかけに、日本でも失われかけていた家族の絆が再びクローズアップされるようになったが、同作は善悪ではなく、無心に子供を守ろうとする、世界各国共通である親心という普遍のテーマを投げかけてくれる、見応えのある作品に仕上がっている。【取材・文 NY在住/JUNKO】

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