ハリソン・フォードは見飽きた!?『42 世界を変えた男』監督がハリソン出演の経緯を明かす|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
ハリソン・フォードは見飽きた!?『42 世界を変えた男』監督がハリソン出演の経緯を明かす

インタビュー

ハリソン・フォードは見飽きた!?『42 世界を変えた男』監督がハリソン出演の経緯を明かす

ただ一人、大リーグ全球団の永久欠番になった男がいる。初めての黒人選手、ジャッキー・ロビンソンだ。このたび、実話を基にした映画『42 世界を変えた男』(11月1日公開)が登場。ジャッキー・ロビンソンの苦悩、勇気、そして世界の変わる瞬間に、鳥肌が立つような感動作に仕上がった。来日したブライアン・ヘルゲランド監督のもとを訪ねると、「ジャッキーに背中を押されて、作り上げることができたんだ」と笑顔がこぼれた。

白人選手だけで構成されていた400人のメジャーリーガーのなかで、たった一人の、そして初めての黒人選手が誕生したのは、1947年のこと。ヘルゲランド監督は「アメリカ人であれば、ジャッキーのことは、ある程度知っているものだと思うよ」と、話す。「初めての黒人プレイヤーで、大変な勇気を持っていたこと。そして42番という背番号が、永久欠番になっていること。彼がドジャーズで初めてプレイした日を記念して、4月15日には毎年、“ジャッキー・ロビンソン・デー”として、みんなが42番の背番号をつけるんだ」。

ジャッキー・ロビンソンは、1972年に他界。彼の自伝の映画化を、何十年も待ちわびていたのが、ジャッキーの夫人・レイチェルだ。ヘルゲランド監督は、まだ存命であるレイチェルに会い、「1945年から1947年に絞って映画を作りたい」とプレゼン。彼女の快諾を得た。「これは失敗できないと思ったね」と振り返る監督。「彼について調べれば調べるほど、本当の彼について全く知らなかったと気付かされた。彼が経験したこと、初めての黒人プレイヤーであることが、どんなに革命的なことだったかもね」と、改めてジャッキーの生き様に深く感銘を受けたという。

『L..A.コンフィデンシャル』(97)、『ミスティック・リバー』(03)など、骨太なサスペンス映画の脚本家としても知られるヘルゲランド監督。本作に取り掛かるうえで力を注いだのは、「自分が脚本家や監督として何が言いたいかよりも、ジャッキーが何を言いたいかを描くことだった」と言う。「とにかく起きたことに忠実に、正確を期することに気を遣ったんだ。これは、私がこれまで取り組んできた作品とは全く違うことだった。僕が中心にいるのではない。この映画の中心はジャッキーなんだ」。

こう語るように、劇中では1940年代の出来事が、その時代の空気と共に見事に再現されている。差別的であったチームメイトと、次第に絆を深めていく様子は感涙必至。「劇中で、ジャッキーに『一緒にシャワーを浴びようぜ』と誘う、ピッチャーのラフル・ブランカも90才代だけれど、まだ存命でいらっしゃって。彼からも当時の話を聞けたんだ」。ジャッキーを支え続けた、レイチェルの深い愛にも心を揺さぶられる。「もちろん、レイチェルにも色々と話を聞いた。この映画によって、彼女と亡き夫の間のロマンスが少しでも甦ったら、僕たちは何よりも素晴らしいことを成し遂げたことになるよね」と、胸を張る。

ジャッキーに扮するのは、まだ無名の俳優、チャドウィック・ボーズマンだ。そして、ジャッキーをドジャーズに誘った球団社長、ブランチ・リッキー役をハリソン・フォードが演じているが、ヘルゲランド監督は「ハリソンにはしたくなかったんだ」と衝撃の告白!「チャドウィックは無名だから、その隣にインディ・ジョーンズやハン・ソロが並んでしまったら、誰もジャッキーの物語に没頭してくれないだろう(笑)?」。

ところが「脚本を読んだハリソンから、『是非、会いたい!』と電話がかかってきちゃったんだよ」とハリソンから猛アピールがあったとか。「僕は頭を抱えてしまって(笑)。僕の思いを正直に話そうと思っていたら、ハリソンの方から『今回の映画では、ハリソン・フォードという人間は消したいんだ』と言うんだ!リッキーというのは、葉巻を吸って、眉が太くて、動き方も独特でちょっと漫画的な人物。ハリソンも、彼のように見た目や動き方も変えたいと言ってくれて。僕はそれであったら、是非やってもらいたいと思った」とハリソンの熱意について述懐。

さらに、「実際に撮り終えてみると、このキャスティング以外は考えられないほどにマッチしていて。リッキーの扮装をしたハリソンに、『誰もあなただとはわかりませんよ』と言ったら、ハリソンは『ハリソン・フォード?彼のことなんて、いい加減、みんな見飽きているだろう?』って言うんだ。さすがだよね」と、嬉しそうに教えてくれた。

「映画の撮影には、苦労がつきまとうものなんだ」とヘルゲランド監督。「チャドウィックも大変な労力を費やすことになったけれど、そのたびに『ジャッキーが経験したことに比べたら、なんてことはない』と言っていた。現場の誰もが、ジャッキーに背中を押してもらって作り上げることができたんだ」と、現場にもジャッキーの思いが脈々と受け継がれていたという。

『42 世界を変えた男』のなかには、新しい扉を開く勇気、人間の尊厳、夫婦の愛など、生きることの輝きがギュッと詰まっている。映画を見れば、ハリソンがそれほどまでに出演を切望したのにも納得だ。清々しい涙をくれる、珠玉の物語として自信をもっておすすめしたい。【取材・文/成田おり枝】

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