鬼才ポン・ジュノ監督がどうしても譲れない監督の権限とは?|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
鬼才ポン・ジュノ監督がどうしても譲れない監督の権限とは?

インタビュー

鬼才ポン・ジュノ監督がどうしても譲れない監督の権限とは?

『殺人の追憶』(03)、『グエムル 漢江の怪物』(06)などの鬼才ポン・ジュノ監督が満を持して放つ、韓国・アメリカ・フランス合作の超大作『スノーピアサー』(2月7日公開)。ジャン・マルク・ロシェットが描いたグラフィックノベルの映画化作品だが、豪華キャストを迎え、壮大なスケールのSF超大作となった。もちろん、深みのあるストーリーテリングにうなる快作である。本作を引っ提げて来日したポン・ジュノ監督にインタビューした。

舞台は近未来の地球。地球温暖化に歯止めをかける実験が失敗に終わり、氷河期を迎えていた。人類が唯一生存できるのは、永久不滅のエンジンを搭載し、1年かけて地球を1周する列車“スノーピアサー”内だけだった!

ポン・ジュノ監督といえば、韓国では人気実力ともに兼ね備えた超売れっ子のヒットメーカーなので、ハリウッドから何度も監督のオファーがあった。でも、彼が首を縦に振らなかったのには理由がある。「ハリウッド映画だと、製作サイドがファイナルカットの権限を持っていることが多いからです。でも、幸い今回の製作会社でメインとなったのは韓国のCJエンタテインメントで、私のコントロールが効くような状況下で仕事ができました。もちろん最終的な編集権も私に委ねられたので、幸運でしたね」。

キャストは『キャプテン・アメリカ』シリーズのクリス・エヴァンスをはじめ、『殺人の追憶』(03)などで何度も組んできたソン・ガンホ、『フィクサー』(07)のアカデミー賞女優ティルダ・スウィントン、『トゥルーマン・ショー』(98)のエド・ハリス、『エレファント・マン』(80)のジョン・ハートといった、そうそうたるビッグネームだ。ポン・ジュノ監督は「順番としては、ストーリーがたまたまこういう内容だったので、インターナショナルなキャストになりました。ただ、映画を作るメカニズムはどこへ行っても同じなんです」と言う。

主演のクリス・エヴァンスについては「すごくアクションが得意で、スタント担当の方も『彼はアクション・マシンのようだ!』と驚嘆していました。でも、それ以上に驚いたのは、彼は『キャプテン・アメリカ』なのに、実はとても繊細かつ敏感で、女性っぽい内向的な一面を持っていた点です。彼が演じたカーティスは、17年閉じ込められていたし、決して忘れられない暗い過去も背負っている。そこをとても一生懸命、繊細に演じてくれました」。

ジョン・ハートは、ポン・ジュノ監督のムダのない撮影について「彼は、自分の欲しい画だけを撮った。それはヒッチコックのように難しいことだ」と絶賛する。ポン・ジュノ監督は「最初に撮影用の絵コンテやストーリーボードを書きますが、出来上がったものを見るとほぼ一緒になっていることが大半です」と穏やかに話す。「ハリウッドと違って韓国映画と予算が少ないから、正確に必要なものだけを撮らなければいけないでしょ。僕は、そのやり方に慣れているからだと思います。これまで現場に編集機を置いていたので、そういったミスが少なかったのかもしれないです」。

また、ポン・ジュノ監督が常にこだわってきたテーマは「人間の条件とは?人間とシステムとは何なのか?ということです」とのこと。「今回は、SFというジャンルで、人間の本質を見ようとしました。規模も予算も大きくなり、キャストも多国籍で、興味の対象やテーマが大きくなったように見えるけど、メッセージはよりストレートになったのかもしれません」。

毎回、脚本から携わり、自ら描きたいテーマをとても丁寧に力強く活写してきたポン・ジュノ監督。常に期待値を上回る作品群は、アジア圏だけではなく、世界中の映画ファンを魅了してきた。『スノーピアサー』は、スケールこそこれまでの監督作の中でも最大の作品となったが、見終わった後、胸に突き刺さるような人間くさいメッセージは健在だ。計算しつくされた逸品なので、大スクリーンで堪能してほしい!【取材・文/山崎伸子】

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