スパイク・ジョーンズ監督の頭の中に潜入!「こんな感じだよ。ガッカリしない?」という中身とは?|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
スパイク・ジョーンズ監督の頭の中に潜入!「こんな感じだよ。ガッカリしない?」という中身とは?

インタビュー

スパイク・ジョーンズ監督の頭の中に潜入!「こんな感じだよ。ガッカリしない?」という中身とは?

『マルコヴィッチの穴』(99)『アダプテーション』(02)など、常に奇想天外な発想で見る者を驚かせてくれる映画監督スパイク・ジョーンズ。初めて彼が単独で脚本を手掛けた『her 世界でひとつの彼女』(6月28日公開)で描かれるのは、孤独な男と人工知能型OSとのラブストーリーだ。

来日したジョーンズ監督を直撃すると、時にいたずらっ子のように微笑み、「これは、人と人とのつながりを描いた映画なんだ」と真っ直ぐな瞳で語る。大胆でありながら、胸が張り裂けそうになるほど優しく、ナイーブな世界は、まるでジョーンズ監督そのものを映し出しているよう。彼の頭、そして心の中に、侵入してみた。

主人公となるのは、ホアキン・フェニックス扮する恋の痛みを抱えた男、セオドア。最新型の人工知能・サマンサと出会った日から、彼の人生が輝き出す。肉体を持たない、人口知能との恋を描く上で、心がけたことは何だろう?「確かに、どちらか一方しかスクリーンに登場しないラブストーリーを作るというのは、とても大きなチャレンジだった。でも、脚本を書いている時も、撮影の時も、最も大事にしたのはリレーションシップなんだ。この映画は、僕自身ももちろん、ホアキンをはじめみんなが、人と人がつながることの話だと思って作っていたんだ」。

肌を触れ合うことができない恋だけに、セオドア、そして観客もそこに孤独を感じるはずだ。「そうだね。だからこそ、登場人物たちも苦しむんだ。でもある意味、どんなカップルでもいろいろな問題を抱えていたりするよね。そういった意味では何も変わらないんじゃないかな。自分が考えている本当のことを話さないカップルだっているしね。セオドアとサマンサには、たくさんの限界があるけれど、彼らはそれについて2人で話し合っているし、互いを理解して、本当のつながりを感じられる関係なんだ」と語るように、アイディアは大胆であれ、あくまで普遍的な恋の物語だと強調する。

恋の愛しさ、切なさを体現するホアキンの演技が素晴らしい。ジョーンズ監督も「彼の演技が深く心に響いてしまって、すごく深遠な気持ちになった。今回は、本当にそういう瞬間が多かったんだ」と胸に手を当てる。「今回、ほとんどの撮影を少人数だけで行ったんだ。モニターも置かずに、僕はホアキンの横で、メモを取りながら彼の演技を見つめていた。今ではモニターを置かない撮影なんて、珍しいんじゃないかな(笑)。でもそのおかげで、僕らの心も通い合い、つながっていた。ものすごく親密なコラボレーションだったよ」。

セオドアの孤独な心のひだを描き切る様は、どれほどにこのキャラクターに愛情を注ぎ、生み出したものかが伝わってくる。セオドアに監督自身の投影があるのでは?と感じるほどだが、「セオドアだけじゃなくて、すべてのキャラクターに僕自身が入っているよ。そういう状況を経験したかは別にして、すべてのキャラクターに共感しながら作り出したんだ」とニッコリ。

では、キャラクターをカラフルにする役者陣を演出する上で気をつけていることとは何だろう。「役者というのはそれぞれ違うし、その人なりの演技プロセスも異なるものなんだ。そういった中で大事なのは、『何をしても間違いではないんだ』と思える環境を作ること。だって僕たちは、役者に人から笑われるようなことや、エモーショナルなこと、セクシュアルなこと。そういった様々な面を表現してもらうことをお願いしているわけだからね。自分自身をさらけ出すことをお願いしているんだから、『何をしても平気だよ』という場所を作るようにしているんだ」。

何と言っても気になるのは、ジョーンズ監督の発想の源だ。本作も間違いなく、誰も見たとこのない映画になったが、一体、彼の頭の中身はどうなっているのだろう。素直な気持ちをぶつけると、目の前のコップを指差し、「このグラスで頭をパッと切って、『こんな感じだよ』って見せられたらいいんだけどね。でもガッカリするんじゃないかな。なんだ、同じような不安を抱えていて、みんなと変わらないんじゃないかってね!」と笑う。

続けて、こう教えてくれた。「自分のことをあまり、『こういう人間なんだ』と決めつけないで、自分の思っていることを誠実に言ったり、物作りに反映させようとしているんだ。自分の中で、『これは良い、悪い』とか決めつけずに、あまり精査しないようにしてね」。自分にも、俳優・スタッフにも、観客にも誠実であること。それこそが人を惹き付けてやまない作品の秘訣だった。

自分をありのままに表現するのは怖い時もあるものだが、ジョーンズ監督は「恥ずかしいから言いたくない、やりたくないっていう時、あるよね。でもたいていは、勇気を持ってそういう自分をあらわにすると、よりみんなと親密につながれることが多いんだ」と温かな眼差しを向ける。「誰かが言っていたんだけれど、相手に対するすべての行動が、一瞬一瞬の選択であり、そのことによって人との距離は縮まったり、離れたりするもの。本当にそうだよね。本音をさらけ出したり、共感して微笑んだりすることもあれば、逆に、自分を隠して距離ができてしまうこともある。それはすべて、自分たちが選んだことなんだ」。

本作が国境を越え、ダイレクトに胸を打つのは、「人とのつながりを感じたい」とジョーンズ監督が心の底から願ったからこそ。恋が辛い気持ちを伴うものでも、世界中の人が、鬼才ですら、同じように喜び、痛みを抱えていると感じることは、明かりが灯るような思いがした。【取材・文/成田おり枝】

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