楳図かずお、初監督作『マザー』に込めた死生観とは?片岡愛之助も「勉強になる」と感銘を受ける|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
楳図かずお、初監督作『マザー』に込めた死生観とは?片岡愛之助も「勉強になる」と感銘を受ける

インタビュー

楳図かずお、初監督作『マザー』に込めた死生観とは?片岡愛之助も「勉強になる」と感銘を受ける

想像力と知性にあふれたストーリー、圧倒的な表現力でファンを魅了し続けている恐怖漫画界の巨匠・楳図かずお。77歳にして待望の映画監督デビューを果たし、ホラー映画『マザー』(9月27日公開)を完成させた。自由奔放にして、エネルギッシュ!そのパワフルな姿は惚れ惚れするばかりだ。そこで、楳図監督と主人公の楳図かずお役を任された人気歌舞伎俳優の片岡愛之助を直撃。本作に隠された深淵なるテーマ。パワーの源について語り合ってもらった。

本作は、楳図かずおを主人公に、楳図作品創造の秘密を解き明かす自伝的なストーリー。死んだはずの母親の情念を中心に、現実と妄想の狭間で恐ろしくも切ない愛の物語が展開してゆく。幼少の頃から「楳図先生のファンだった」という愛之助だが、「お会いするまで、どういう方なのかなと色々と想像していたんです。優しいお顔の裏には、実は神経質な面があるのかなとか」とニッコリ。「お会いしてみたら、イメージ通り、優しくておおらかな方で。それでいて、作品に対する情熱というのはすごかったですね。『ストーリーは命だから』とおっしゃっていて、『こう』と決めたらもう曲げない!先生の熱い心を感じました」。

続けて「やっぱりもの作りで大事なのはハートですよね。先導者が『行くぞ!』と言ってくれれば僕らはそれに付いていけばいいんですから。楳図先生の現場にはブレない気持ちがあって、僕らはすごく安心でしたよ」と現場を引っ張る熱い気持ちに感謝する。すると「はい。僕は決めたら一直線のタイプですね。迷いません」と楳図監督。「まず、自分の心の声がOKを出さないと物事が滑り出さないんです。『これで大丈夫だよ』というものが心の中からわき上がってきたら、もうそこからはブレない。周りが何と言っても聞かないですね。もの作りには、そういう自信が必要なんだと思います」。

自分自身を主人公に、母親の秘密、自身の創作の原点に迫る物語。楳図監督は「僕は、単純なお話が好きだから、まずは『怖い!』と単純に楽しんでほしい」と話すが、本作の発想の源を聞いてみると、深い思考が浮かび上がってきた。「病院で、今もう亡くなろうとしている母親が出てきます。人生の最後には、何らかの不満を持っていたり、『嫌だな』と思いつつ亡くなる人。そして、そういう嫌なものをうまく昇華して亡くなる人とがいると思うんです。ある意味、心理学的なんですけどね」。

さらに「嫌なことを引きずったまま亡くなってしまう人もいると思うんだけれど、僕は、人間はそういうものをうまく処理する能力を持っているものなんじゃないかと。“亡くなる”というのは、その人にとって1回こっきりのことなんだけれど、先祖を上へ上へと辿っていけば、自分たちを良い死に方へと導くような意識が、どこか遺伝的に伝えられているんじゃないかと思っていて。そこが今回のポイントなんです」と熱弁。過去、現在、未来へと命をつなげていくこと。そして、人類の進化をあらゆる角度から見つめる視点。楳図ワールドの真骨頂ともいえる、濃厚なテーマが込められていたのだ。

「楳図ワールドと歌舞伎には共通点がたくさんある」と、意外なマッチングに驚く2人。常に新たな世界を見せてくれる楳図監督と、「半沢直樹」で演じたオネエキャラでブレイク。思い切った役どころで新たな一面を次々と見せてくれる愛之助とは、生き方にも共通点が見られるように感じる。

すると楳図監督は「本当に似ていると思う」と大きくうなずいた。「『仕事が遊び!』と思っているところなんてね」と続けると、愛之助も「そう!それは一緒なんです」と嬉しそうな笑顔を見せ、「僕は仕事が楽しいんですよ。『うわ、仕事や。こんなにある』と思いながらこの仕事量をこなしていたら、多分ストレスで死にます(笑)。でも、楽しみながらやっていると、何にもストレスが溜まらない。だから、休みがなくても平気なんですよ」と日々の充実感を告白。

楳図監督は「僕も、仕事というよりかは、遊びが仕事になっているという感じなんです。何か新しいことを見つけて、それをやること自体が楽しい。そして、それをこっそり隠れてやるんじゃなくて、皆さんに見ていただくこと。見ていただけるから、頑張ろうと思うんです」とエネルギーの源は、「作品を見てくれる皆様」だという。それは、舞台でダイレクトに観客の反応を感じている愛之助ももちろん同じだ。「舞台もお客様あってのもの。舞台というのは、俳優同士のキャッチボールとお客様とのキャッチボール。それらがひとつの作品を作り上げて、みんなで楽しむもの。僕はそれが、面白くて仕方ないんです」。

目を輝かせて、自らのパッションを注ぎ込む世界について語る。愛之助も楳図監督の考え方やエネルギーに感心しきりで、「今回は本当に勉強になりました。こんな素敵な大人になりたいです。すごいですよ。このパワフルさは!」と大いに刺激を受けた様子。そこには、もの作りに向かう“同志”としての2人の晴れやかな笑顔があった。【取材・文/成田おり枝】

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