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『バードマン』のドラマーがアカデミー賞の葛藤を告白

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『バードマン』のドラマーがアカデミー賞の葛藤を告白

本年度アカデミー賞作品賞はじめ最多4部門を受賞した『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(公開中)は、大胆なアプローチで撮られた快作だ。現実と幻想が錯綜する物語に、1カットと見まがうような驚嘆映像、それらをより効果的に結びつけるドラムスコア。

その音楽を手がけたのが、グラミー賞を4度受賞した、ジャズドラマーで作曲家の鬼才アントニオ・サンチェスだ。来日した彼にインタビューし、制作裏話について聞いた。

本作は、かつてヒーロー映画で人気を博した俳優リーガン(マイケル・キートン)が、再起をかけてブロードウェイの舞台に挑む姿を描くブラックコメディだ。監督は『バベル』(06)のアレハンドロ・G・イニャリトゥ。サンチェスによるドラムは、主人公リーガンの内面に寄り添い、葛藤や苦悩、怒り、開放感など、あらゆる感情をふちどっていく。

サンチェスとイニャリトゥ監督とは初タッグとなったが、出会いは彼が長年、共に組んでいるパット・メセニー・グループのライブでの打ち上げだった。

さらに後日、サンチェスがずっと以前にイニャリトゥ監督がラジオDJをやっていた番組の視聴者であったこと、そのラジオ番組で、サンチェスは初めてパット・メセニーの音楽を聴いたのだと言うことが判明して驚いたと言う。

「本当に運命の円環だよね。結局パットとは15年来いっしょに演奏し続けているし、今回、アレハンドロの音楽も手がけることができたんだから」。

近年の映画界では、メキシカンパワーが炸裂している。『バードマン~』のイニャリトゥ監督、『ゼロ・グラビティ』(13)に続き本作でも撮影賞を受賞したカメラマンのエマニュエル・ルベツキ、『ゼロ・グラビティ』で昨年のアカデミー賞監督賞を受賞したアルフォンソ・キュアロン監督、そしてサンチェス。全員メキシコ人だ。

サンチェスは「僕のことではないけど、彼らは本当にすごい。2年連続でメキシコの作品や監督がアカデミー賞を獲るなんて思ってなかったよ」と興奮気味に話す。

「アカデミー賞は政治的な絡みがあるからね。今回、アレハンドロが監督賞をもらった時、とても感激したけど、まさか作品賞まで獲るとは。これだけメキシコに勢いがあることはすごくうれしい」

「でも、それだけみんな努力をしていて、それに見合った評価をようやく得られたんじゃないかな。僕は普段泣かないけど、授賞式を家で見ていて思わず泣いてしまったよ」。

実は、アカデミー賞に関しては、複雑な思いを抱えていたサンチェス。なぜなら、『バードマン~』で、彼の音楽自身も非常に評価が高く、アカデミー賞ノミネートが確実視されていたが、候補者名に彼の名はなかったのだ。

「いちばんショックだったのは、授賞式に参加すること自体が許されなかったことだ。その発表は、奇しくもゴールデングローブ賞のノミネーションの告知を受けた日でもあった」

「理由自体も主観的に感じたよ。オーケストラのスコアじゃないからか、ドラムというものを1つの楽器として認めていないのか、どうなのか。それはアカデミー会員ではなく、運営側が決めたことらしいんだけどね」。

ただ、これは後日談がある。「その後、僕はアカデミー会員の多くの作曲家の方々からメッセージをもらったんだ。それは『いままでとは全く違う新しいサントラに投票できないことが非常に残念だし、恥ずかしい』といった内容だった」

「僕自身、アカデミー賞のこと自体を考えるのはよそうと思ったけど、結果的に、作品賞や監督賞を獲ってくれたのだから良かったよ。それに、物議を醸した分、より話題にはなったからね」。

続けて、いつかリベンジを果たしたいという思いはあるのだろうか?と聞いてみた。「僕にとっての復讐!?というか、賞に値するものは、もう『バードマン~』の受賞で叶ったよ」

「この作品は今後も語り継がれる名作となるだろうから、僕の楽曲もずっと残っていく。オスカーの授賞式の時だって、『バードマン~』が紹介される度に、僕のドラムの音がかかった。もう、それだけで十分だ」。そう言ってサンチェスは、清々しい表情を見せた。

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を見れば、アントニオ・サンチェスの音楽がいかに映像と融合し、作品を高みへと押し上げていったのかが感じ取れるはず。ぜひ、音響の良い大きな映画館でご覧いただきたい。【取材・文/山崎伸子】

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