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声優初挑戦の杏、「全部の作品に超えるべき壁がある」

インタビュー

声優初挑戦の杏、「全部の作品に超えるべき壁がある」

若手実力派女優は、声だけの演技でもスキがない!『百日紅~Miss HOKUSAI~』(5月9日公開)で、ヒロイン・お栄の声を担当した杏を見て、そのことを実感した。声優初挑戦とは思えないハマりぶりには舌を巻く。

お栄は、浮世絵師・葛飾北斎の娘で、父と同じ道を歩んでいる自立した女性。杉浦日向子の原作の大ファンだったという杏は、お栄にどうアプローチしたのか?その舞台裏を聞いた。

杏は、杉浦日向子の作品はエッセイから読み始めたそうだ。

「すごく造詣が深い方なので、すぐ虜になりました。まるで自分の目で見たものを描いているようなリアリティがあるんです。江戸時代では、さすがにそんなことはできるわけがないのに、それを感じさせる筆の力は、本当にすごいと思いました」

監督の原恵一も大の杉浦日向子ファンで、とにかく原作を大事にして映像化したそうだ。

「杉浦日向子さんのテイストや意思がすごく好きだという人たちが集まって、アニメーションにしようと思い、作った作品だなと感じました。映画を観た時、実際に江戸へ行ったら、空や星空、海や川はこんなふうに澄んでいたのかなと思いました」

初挑戦のアフレコについては、とにかく原監督の指示を仰いだそうだ。

「初めてだったので、自分のなかで何が正解なのかも想像がつかなかったので、監督には『ダメだと思ったら、何百回と言っていただきたい』とお願いしました。工夫する点なども、監督にゆだねた部分が多かったと思います。アニメーションという広いくくりで見ると、人の筆で描けるものは何でも具現化できる。そういう世界に入れるのは、興味深くて面白い部分ですね。人間ではないキャラクターの声にもなれるし、無限の可能性があります。もちろん声専門のお仕事の方もいらっしゃるので、あんまり図々しくは言えないのですが、今回やってみてとても面白かったから、またやらせていただきたいです」

また、杏は、1998年に米国「ライフ」誌が発表した「この1000年間に偉大な業績をあげた世界の人物100人」で、唯一選出された日本人が葛飾北斎だったことを例に挙げ、「海外での浮世絵は、日本の美術で群を抜いて注目されている分野だと思います」と、その魅力について触れる。

「現代の私たちにとっての浮世絵は、歴史のなかで完成されたものという認識ですが、劇中ではそれを実際に描いている姿や生の感情も含め、北斎たちの生き様も描かれているんです。アトリエみたいな場所ではなくて、汚い家で描いているところを見ると、それも彼らの生き様だということを、新鮮に見ていただけるんじゃないかと思います」

女優として順風満帆な印象を受けるが、「全部の作品に、超えるべき壁やハードルがあった気がします」と振り返る。

「でも、やる前に考えることと、やってから難しいと感じることは、全然違うのかなと。それは、モデルをやっていた時から感じていることで、私はたぶん、やってみてから考える方が、建設的かなと思っています」

大きな瞳で、しっかりと前を見据え、女優街道を邁進する杏は、演じたお栄の強さと重なり合う。原監督が手がけた、生き生きとした江戸の街を闊歩するお栄の姿を見ていると、襟を正したくなる。ぜひ劇場へ行って、しばし江戸時代へタイムスリップしてみてほしい。【取材・文/山崎伸子】

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