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新宿ジョイシネマ閉館で考える“シネコン時代の今後”

コラム

新宿ジョイシネマ閉館で考える“シネコン時代の今後”

5月31日、新宿ジョイシネマが閉館。4月17日に閉館した新宿トーアに続き、またしても歌舞伎町から映画館が消えた。

2007年オープンの新宿バルト9や、2008年オープンの新宿ピカデリーといった近代的シネコンの誕生や、コマ劇場などの閉館といった歌舞伎町の街自体の動きもあっての結果だが、昨今こうした既存の映画館の閉鎖が後を絶たない。シネコン・既存館含めてすでに3000スクリーンを超えて飽和状態となった今、映画館はどこに向っていくのか。新宿ジョイシネマの最終日におじゃまし、青柳支配人にリアルな映画館事情を聞いてみた。

「果たして日本に3000スクリーンもの映画館が必要なのか。それが映画人口の底上げによる結果としてならいいのですが、そうではなく、単に同じお客さんを取り合ってる形です。一般的にはヘビーユーザーに対して『もう一度観て下さい』って方が響くんですが、それだと映画人口は増えていかない。普段劇場に足を運ばないみなさんをいかにひっぱってくるかが、業界全体の使命です。それはシネコン自体の生命にも関わってくることですから」

実際、シネコン先進国アメリカでは、急激なシネコンのオープンラッシュとなった1990年代に、採算のとれない映画館の閉鎖が相次いだ。2001年、京都に参入予定だったロウズ・シネプレックス・エンターテインメントが、同年に経営破綻して断念したのも興行界では話題となった。

それでは、今後、映画館はどのように映画ファンを獲得していけばいいのか。新宿ジョイシネマが展開した、スタッフ選出作の特集上映「さよならフェスティバル」のラインナップなどは普段上映しない映画が上映されたが、このような作品も底上げの一つの手段となるかもしれない。

「入りがよかったのは、『ミリオンダラー・ベイビー』(05)や『硫黄島からの手紙』(06)、『ゴッドファーザー Part1』(72/デジタルリマスター版08)ですね。また、『人間の條件 全6部作』(59・61)も意外と健闘しました。9時間半もの作品を上映するなんてことはなかなかないので」

『ミリオンダラー〜』、『硫黄島〜』などの2作は、現在『グラン・トリノ』(08)が上映中で、映画ファンの支持率が高いクリント・イーストウッド監督作なので納得。『ゴッドファーザー〜』は作品力はもちろん、デジタルリマスター版を大きなスクリーンで観られるということで足を運んだ人が少なくないはずだ。『人間の條件 全6部作』は年配層を引き込めたのが勝因か。でも、休憩だけでも数回入る長丁場なのに集客できたのはすごい。いずれにしても“ここでしか観られない”というレア感に惹かれて足を運んだ観客が多かったのだ。

学生時代は名画座に通いつめたという支配人は、これらの名作に対する愛着が深い。「最近はDVDでもいい環境で映画を観られますが、やはり大きいスクリーンで観ると全然違います。こういういい映画こそ、映画館で観てほしい。そこで興味をもってもらえれば、また次につながるし」。実際に名画座で好調なところは、支配人やスタッフの目利きにより、映画館でしか観られない名作や独自のカラーを打ち出した個性派作品群がかけられていることが多いのだ。

また、ソフトだけではなくハードも重要だが、支配人はさらに情報伝達の速さが集客のカギになると言う。「自分たちの映画館の情報や入場券の販売方法なんかを、いかに迅速に伝えるかが大事です。ネットなどを使った販売や、映写関連でいえば、デジタルシネマや音響などの設備、椅子の質やコンセッション(売店)の内容も含め、ほかの劇場とどう差別化していくかですね」

2009年は3D映画の大作が目白押しだ。また、画期的なハードといえば、日本初の「IMAXデジタルシアター」が、SF超大作の続編『トランスフォーマー:リベンジ』の6月19日(金)の世界最速上映に合わせて3サイト同時にオープンする。ハードの進化について、現場ではどう思っているのだろう。

「3D映画について言えば、業界全体が一気になだれ込むかといえば、時間はかかりそうです。やはりまだメガネをかけなくてはいけないのがネックだし、設備費の問題もある。『デジタルシアター』はシネコンのうち1スクリーンをそうすることによって、ほかとの差別化をアピールできる点ではいいですね。とにかくソフト、ハード含めて今後も試行錯誤ですよ」

シネコンVS既存の映画館というだけではなく、シネコン自体も同じパイを食い合う状況が深刻化されてきた今、生き残るすべは、そういった差別化にあるのか。各社それぞれにどんな戦略を繰り広げていくのか、今後も気になるところだ。【MovieWalker/山崎伸子】

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