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イタリア映画界を揺るがした極上のミステリー ―No.19 大人の上質シネマ

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イタリア映画界を揺るがした極上のミステリー ―No.19 大人の上質シネマ

イタリア映画界で“10年に1度の名作の誕生”と囁かれる作品が現れた。あの『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)や『ライフ・イズ・ビューティフル』(98)を抜いて、イタリアのアカデミー賞で史上最多の10部門受賞という快挙を成し遂げた映画『湖のほとりで』だ。派手さやスケール感こそ前述の2作には及ばないが、“家族”という普遍的な問題を深く掘り下げたこの新たな作品は、観る者を圧倒する力を持っている。

物語の発端は、北イタリアの小さな村のはずれにある湖のほとりで、美しい少女・アンナの死体が発見されたことに始まる。犯人と争った形跡はなく、まるで眠ったように穏やかな顔つきの死体は、残酷ながらもどこか優しさをまとっているかのように謎めいていた。彼女は、いったい誰に、なぜ、殺されなければならなかったのか? この謎を解くミステリー仕立ての構成に、まずグッと引き寄せられる。

だが、この映画はただの“犯人探し”を描いたものではない。事件を追う刑事サンツィオの捜査を通して、アンナを取り巻く村の人々が抱えていた家族の問題が浮かび上がる。アンナの父親が娘を偏愛していたこと、アンナがベビーシッターをしていた子供が事故で亡くなり、その両親が別れてしまったこと、障害を持つ息子にうまく接することができない男が、村の中でただ一人、アンナを憎んでいたということ。そして、アンナ自身も、家族でさえ知らなかった衝撃的な秘密を抱えていたこと。これらの複雑な事情が次第に明らかになり、ドラマは家族の在り方についての問いかけを強めていく。

何より“大人”たちを惹きつけるのが、サンツィオ刑事の心の道行きだ。老齢にさしかかり、刑事としても人間としてもベテランといえる彼とて、自身の家族の問題については容易に解決することができない。認知症におかされた妻と、そんな母親に娘を会わせることができない辛さを抱える彼の葛藤が、ドラマの魅力をさらに深めていくのだ。

ミステリーをスパイスとして、家族間の“もつれ”や“ほころび”を謎解きの軸に盛り込み、重層的な語り口で展開する本作。その人間への厳しくも優しいまなざしと、家族の絆が見え隠れする感動的なクライマックスには、涙がこみ上げるというよりは、いつまでも胸に残るような深い印象が残る。そして、自分自身のパートナーや家族との関係について、改めて見つめ直さずにはいられないだろう。【トライワークス】

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