西島秀俊と竹内結子「黒沢清監督の現場は催眠術にかけられたよう」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
西島秀俊と竹内結子「黒沢清監督の現場は催眠術にかけられたよう」

インタビュー

西島秀俊と竹内結子「黒沢清監督の現場は催眠術にかけられたよう」

前川裕による日本ミステリー文学大賞新人賞受賞小説を、黒沢清監督が映画化した『クリーピー 偽りの隣人』(6月18日公開)で共演した西島秀俊と竹内結子にインタビュー。『ストロベリーナイト』シリーズで共演した時は、西島演じる部下が、竹内演じる上司を思う一方通行的な恋心が切なかったが、今回は晴れて(?)夫婦役ということで、大いに喜んだと言う。ただ、後半では怒涛の展開が待ち受けていて、観る者は度肝を抜かれる。

元刑事で犯罪心理学者の高倉(西島秀俊)は、元同僚の刑事・野上(東出昌大)から、6年前の一家失踪事件の分析を依頼される。その調査が難航するなか、高倉が妻・康子(竹内結子)と引っ越した新居の隣人・西野(香川照之)の不可解な様子が気になっていく。やがて、その未解決事件の真相と、隣人一家の衝撃的な正体が明かされる。

西島は竹内に「ずっと一方的に片思いをしてきて、遂に夫になることができました。ちょっと不穏な空気がありつつも、表面的には穏やかだったので、うれしかったです」と満面の笑みを浮かべる。

竹内も「私もいつかはと思っていましたが、やっと夫婦まで登りつめました」と2人で喜び合う。「でも、あまり幸せな方向ではありませんよ。まあ、そういう関係の方が似合っているんでしょうか(笑)。微妙なバランスを保っている夫婦なんです」。

2人でおいしそうな食卓を囲むシーンも印象的だ。西島は「姫川さんに凝った料理を作っていただくのは、とにかくうれしかったですよ」と、『ストロベリーナイト』で竹内が演じた姫川玲子の名を挙げる。「専業主婦の役というのもすごく新鮮でした。チャーミングな奥様で、僕は役として楽しくやらせていただきました」と西島は極めてご機嫌だ。

竹内も「楽しかったです。今回のようなポジションの役をもらえて、やったー!と思いました」とおちゃめに笑う。

黒沢組初登板となった竹内は、黒沢監督の演出方法について「『康子さんは、夢を見ているような感じで』とアドバイスをいただいたんですが、監督が教えてくださるお芝居のタイミングにふわっと乗りかかっていたら、いつの間にか『はい、カット』と終わっていて。監督は決して誰にも大きな声を上げないし、あのゆったりとしたしゃべり方なので、催眠術にかけられていたんじゃないかと思ったほどでした。不思議な魅力をお持ちの方ですね」。

西島は、『ニンゲン合格』(99)、『蟲たちの家』(05)、『LOFT ロフト』(06)に続き黒沢監督作は4本目となった。「黒沢組では、みんなが監督の演出や指示に対して『え?そう来るんだ!』と思うことを楽しみにしています。1カットのなかで、役者はものすごく動き、いろんなことをやるんですけど、竹内さんがおっしゃったように、演じる側は黒沢監督の催眠術にかかっているので、たとえばどんなに膨大なセリフでもやれちゃうんです。できあがりを見て、『わあ!こんなに長い1カットになっていたんだ』と思ったりするわけです。でも、前日から明日のことを心配したりすることも全くなくて、現場ではすごくリラックスしてやらせてもらいました。まさに夢を見ているような現場ですね」。

竹内も「楽しさが連鎖するような現場です。たぶん西島さんが一番穏やかなので、そのふわふわっとした空気が何かを生んでいくのかもしれないです。いわゆるグルーブというものでしょうか」とうれしそうに話す。

西島は「黒沢さんも楽しそうに芝居を見ていらっしゃるし、スタッフも穏やかです。すごいところにレールを敷いたり、クレーンで大掛かりな撮影をしていたりするんですが、やっぱり楽しそうにやっています。黒沢さんの人徳ですね」と分析する。

竹内は「でも、決めるところは決める。みんなが、この作品を撮りたくて毎日来ているという感じがします。すごく良いチームでした」と、充実した現場を振り返った。

2人の和やかな表情から、黒沢組ならではの居心地の良さが感じ取れた。しかし、できあがった映画『クリーピー 偽りの隣人』は、予断を許さないすさまじいサスペンス・スリラーに仕上がっている。その容赦無い展開と、現場の柔らかい雰囲気のギャップが実に興味深いと思った。【取材・文/山崎伸子】

作品情報へ

関連作品